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ひと雨千両 [自然]

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かつて「ひと雨千両」という言葉があったという。

いまどきこれを知っている人は少ないのではないか。植林した杉は雨が降ると降るたびにぐんぐん成長する。その分山持ちは杉山の値打ちが増えるという意味だ。
このことは木材の価格が高かったことと林家の経営規模が大きく、所有する人工林の面積が大きいことによる。言うまでもなく戦後改革で農地と異なり林家は林地の細分化を免れたからである。
しかし、今は木材価格が輸入材の増加によって低下しているのでどんなに雨がふっても関係ない。それどころか地ごしらえをして植樹をしたあとの下刈り、間伐、杉の枝打ちなど山の手入れも出来ず山林は荒廃の一途を辿っている。原因が林業自由化にあることは周知の通りである。住宅を創る場合、誰でもラワンなど外材や合成樹脂材より杉や檜が好きだ。にもかかわらず、国産材はそれらと比べて明らかに割高である。かくて家の建築における木材比率の低下をもたらす。我が国の木材自給率は27.8%(2008年)という。

戦後の農地改革で小家族経営となった農業では、長いGATT交渉を経てすでに自由化が林業並みに進んでいる。極端に言えば米だけで全体の食糧自給率(カロリーベース40%・2007年)を支えているのが現状である。

 TPPの議論が始まろうとしているが、米の関税撤廃は今の林業以上の打撃を農業に与えることになると懸念されている。衝撃緩和のための農家、農業、農村への資金の投入策もとくに中山間地では効果薄だ。
 都市は周囲の農山漁村地域で支えられている。その疲弊は農山漁村だけにとどまらないであろう。

 30年前、仕事で九州三大美林(鹿児島県屋久島の屋久杉、宮崎県日南地方の 飫肥(おび)杉)の一つとして有名な大分県の日田杉の経営者を数十軒訪ねたことがある。日田杉は、挿木苗で疎植、成長が早いのと大山林家が多いのが特長と教えて貰った。
 日田林業は天領だったころからすでに大山林家が生まれ500町歩を超える山林地主もおり、長い歴史をもつ。
 30年前すなわち、昭和50年後半にはもうその時、すでに多くの林業経営は大規模林家を含め危機的状況にあったと言って良い。現状はより悪くなっているのではないかと危惧する。

 農業のサイクルは1年だが、杉は植林してから材木として利用するために伐採するのに少なくとも30年余を要する。大きな規模の山持ちでも経営をいかに長期間維持するかは難題である。

 「ひと雨千両」から、柄になく、難しい話になってしまった。
 話題を変えたい。話題のひとつは、杉の巨木のこと。

 杉は、神社の杜の杉や国の特別天然記念物日光杉並木 のように材木として使われず落雷、風水害にあわなければ300年、500年と生きる。
 遠くから見ても杉は、古木の場合木のてっぺんが丸いのですぐ分かる。木の先端が三角錐のように尖っているのは若い木だとこれも林家に教えて貰った。
 日田や熊本の小国、奈良の吉野郡天川村、川上村の良く手入れされた樹齢100年前後の杉林も素晴らしいが、年を経た巨木が空に聳えているのも一種独特の風格があって圧倒される。

 残念ながら今まで見る機会がなかったが、屋久島の縄文杉は推定樹齢4000年と言われ、1000年未満は小杉と呼ばれるとか。

 福岡の英彦山の麓にある小石原は小石原焼で有名だが、その近くにある巨木群は行者杉と呼ばれ樹齢は200年〜500年。近くに寄って触れてみるとなにやら霊気のようなものを感じる。

また、奈良県吉野郡十津川村の玉置神社は、世界遺産となった熊野三山の奥の宮であるが、境内には樹齢3000年というご神木を含む老巨杉群がある。ここも訪ねたことがあるが、まさに荘厳と静寂な雰囲気は太古の世界かとみまごう。上の写真は玉置神社のご神木である。

 巨木に神が宿ると考えた昔のひとの気持が良く理解できる。

 もう一つの話題は、杉と言えば避けて通れぬ花粉症の問題。1960年代前半にスギ花粉症例が確認され、すでに半世紀の間人びとを苦しめている。戦後植林した杉花粉が元凶とされる。
 しかし九州に限らず、和歌山、奈良、秋田など江戸時代から人工林はある。現代人のアレルギーに対する免疫力の脆弱化こそ問題である。
 問題解決のために、伐採して杉林を照葉樹林にすることや花粉のない杉の品種を開発することなどが必要だとされているが、人間の免疫力を低下させている何かを究明しないと根本的解決策はないのではないか。花粉症は1960年以前には無かったのだから。


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