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釣り忍 [風流]

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5月19日土曜日次男夫婦が、父の日と母の日両方合わせたプレゼント、と言ってつりしのぶを持ってきてくれた。兵庫県宝塚市の業者から通販で買ったという。ボール型で風鈴付き。

昔、疎開先の田舎で山中の小川べりや崖に、これらしきものが沢山生え、繁っていたのを懐かしく想い出した。蕨やぜんまいも成長すると似た姿かたちになるが、釣り忍の方が全体に繊細で優しい感じである。

同封されている説明書には、つりしのぶの紹介から栽培管理まで懇切丁寧に書かれている。
少し長いが説明書から引用して見ると、
 「夏の風物つりしのぶは、江戸時代、深川周辺に住んでおられた植木屋さんによって、色々な形が作られ、つりしのぶの持つ涼感と風情を味わってもらう為、出入りのお屋敷に吊られる様になりました。(後、疫病、魔厄よけの風鈴を付け)それが全国に広まり。今日に至っています。
歌川広重も、うちわ絵の中で描いています。小林一茶も句に詠っています。
水掛けて 夜にしたたる つりしのぶ
 毎年春にはぜんまい状の芽を次から次へと出して、葉になっていく様子は植物の神秘を感じます。
 盛夏の中、風に吹かれてそよそよとなびく葉姿は、一服の安らぎと風情をかもしだします。
 秋には少しずつ紅葉し晩秋の風情を演出し、厳冬にも負けず根茎がりんとして春を待っている姿は、しのぶの力強さを感じます。
 一年中、樹木の枝下等に吊りまして、当園の作り方で作りましたら、環境が合えばわずかな手入れで、10年、20年単位で鑑賞でき、手間いらずの植物です。」

早速見たHPも、おおよそこれと同じようなことが書いてあった。
http://www5e.biglobe.ne.jp/~sinobuen/kyousitu.html

つりしのぶの草は、調べてみると、「シノブ」(Davallia mariesii Moore ex Baker)である。シダ植物門シノブ科に属するシダ。樹木の樹皮上に生育する着生植物である。葉は秋に紅葉し、冬に落ちる落葉性。
日本では、北海道の一部から琉球にかけて、国外では朝鮮、中国、台湾に分布する。とするとアジアだけ?。
山地の森林内の樹木などに着生するが、わが国では、古くから採取され栽培されてきた。
特に棕櫚の皮などを丸く固めたものに山苔とシノブを這わせ、紐で吊るせるようにしたものを「シノブ玉」と呼び、軒下などに吊り下げて鑑賞した。
これが説明書きにある夏の風物詩、釣り忍(つりしのぶ)で、江戸時代さかんに流行したが、現代の東京では朝顔や鬼灯などより、市も立っていないらしく、すっかりマイナーになってしまった感がある。おそらくこれを作る職人も業者も、もはや希少ではないかと推察する。
最近は、葉の厚い、台湾産のトキワシノブ(Humata tyermanii)が好まれ、栽培されているという。これは、常緑、冬でも葉が枯れ落ちない観葉植物である。

シノブに似たものに「ノキシノブ」(軒忍、Lepisorus thunbergianus)があるが、全く別物であり、間違いやすい。こちらは、シダの一種であるところは同じながらウラボシ科ノキシノブ属に属するシダ。和名のノキシノブは、軒下などにも生え、シノブと同じく着生することからとのこと。山では、びっしり木の幹に着いて生えているの見ることがある。

かくの如く、シノブもノキシノブいずれも、シダ植物(シダしょくぶつ、羊歯植物、歯朶植物)である。シダは、胞子によって増える植物であり、「非種子植物」の総称でもある。
種で増える「種子植物」は、我々になじみが深い。周知のように被子植物(キク、イネなど)と裸子植物(マツ、イチョウなど)の二つがあることは昔々学校で習った。
系統発生的には、陸上植物はコケ植物がまず現れ、苔類、蘚類、ツノゴケ類の順に現れ、ツノゴケ類からシダ植物が発生したという。粗っぽく言えば、このシダ植物から種子植物は現れる。

恐竜映画などでは、その背景によく出てくるように、シダは古代からある植物である。
シノブという和名も、水が少なくなっても耐え忍ぶ草という事で付いたというが、シダ類は栄養分のも少ない岩や樹枝などに着生して、何万年も生きてきた忍耐力抜群の「つわもの」である。

説明がきにもあるように、忍ぶ、偲ぶという語感もあって、古くから文学でも多くとりあげられて来た。
一茶の句はまさしくつりしのぶだから「シノブ」が詠われていることは間違いないが、例えば、新古今和歌集64 
つくづくと張るのながめのさびしさは忍ぶにつたふ軒の玉水 大僧正行尊

などは、シノブかノキシノブどちらなのか判然としない。

また、俳聖芭蕉の
御廟(ごべう)年経て忍は何をしのぶ草(野ざらし紀行)も同様である。

源氏物語「 蓬生」にも忍草が登場するが、これもどちらか不明だ。
忍草の出てくる箇所は、次のとおりである。
「月入り方になりて、西の妻戸の開きたるより、障はるべき渡殿だつ屋もなく、軒のつまも残りなければ、いとはなやかにさし入りたれば、あたりあたり見ゆるに、昔に変はらぬ御しつらひのさまなど、忍草にやつれたる上の見るめよりは、みやびかに見ゆるを、昔物語に塔こぼちたる人もありけるを思しあはするに、同じさまにて年古りにけるもあはれなり。」

ー昔と変わらぬお道具の様子などが、忍ぶ草にやつれているように見えるというより、むしろ優雅にー」という雰囲気からすると、「シノブ」でなく「ノキシノブ」のような気もするが、定かではない。

もちろんいずれも、どちらであっても良いことで、詮索する方が野暮というものではあろう。

角川 合本俳句歳時記第四版では、季語「釣忍 つりしのぶ」は次のような説明と例句が掲載されている。
吊忍、軒忍、夏 生活
シダ植物のシノブグサの根や茎を束ねて球形または月、小屋、船形などさまざまな形に作ったもの。軒下などに吊るし、充分水を与えることで、その緑葉の涼しさを楽しむ。

薄べりにつどふ荵のしづくかな   一茶
子を海にやりて幾夜やつりしのぶ  安住敦
つりしのぶまろき水玉垂らしけり  木下夕爾
大雨の底なる八瀬の釣忍   波多野爽波
吊しのぶ小禽のやうに水貰ふ   坂巻純子
下町の今日も雨呼ぶ釣忍   水原春郎
来ればすぐ帰る話やつりしのぶ   西村和子

自分も夏が終わるまでに、佳句は望むべくもないが自分なりに満足出来る一句が得られるよう、貰った風流な釣り忍を毎日眺めることにしようと思う。
それにしても、しみじみとした良い生活を送りたいと願っているものには、何よりのプレゼントである。
父母の日や感謝、感激、つりしのぶ。?うん。
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