SSブログ

妙正寺川の立葵(タチアオイ)(2終) [自然]

image-20120612163050.png

タチアオイはアオイ科であることは、前回(1)に書いた。アオイ科にはタチアオイの他、観賞用の①ハイビスカス、②ムクゲ、③フヨウのほか、食用の④オクラ、また⑤ワタや⑥ケナフなど繊維として利用されるものもある。

①ハイビスカス、園芸用・観賞用としていくつかの種が「ハイビスカス」として花屋さんでも売られている。その代表的なものはブッソウゲ(仏桑華、Hibiscus rosa-sinensis)である。歳時記では、ハイビスカス、仏桑花、琉球木槿とあり夏。

家よりも墓ひろびろと仏桑花 深見けん二

過日、石垣島土産として 頂いた「ハイビスカスティー」を飲んだ。沖縄だからハイビスカス(仏桑花)だとばかり思って飲んだが、これに用いられる花は、通常、ローゼル(Hibiscus sabdariffa)と呼ばれ、ハイビスカスとは別種のものだそう。


②ムクゲ(木槿、別名にハチス「波知須」、Hibiscus syriacus、英語ではrose of Sharon)は、アオイ科の落葉低木。 庭木として広く植栽されるほか、夏の茶花としても欠かせない花である。
早朝に開花し夕方には萎んでしまう「一日花」で、人の世の短い栄華喩え「槿花(きんか)一朝の夢」と表現される。 その儚さ故、華道では余り好まれないのか生け花では敬遠されるとか。
中国語では木槿(ムーチン)、ムクゲはこの音からか。朝鮮語ではムグンファ(無窮花)という。次々と咲いて尽きることのない 、お目出度い花という意味であろう。韓国の国花である。
「槿花一日の栄」は、槿花一朝と同じく儚いことと誤解されているが、出典の白楽天の詩の一節は「槿花一日自成栄」で、槿花は一日で自から栄を成す、つまり仏法があっというまにひろがったと解釈するのが正しいとのこと。
歳時記では、 木槿(ムクゲ、モクキン)、花木槿、底紅とも。季語秋。芭蕉の「道のべの木槿は馬にくはれけり 」(野ざらし紀行)がつとに有名。
「底紅」とは盃の底の様な花の中心が紅いことからであろう。昔の人も良く特徴を見て詠い季語としたものと感心する。

底紅の咲く隣りにもまなむすめ 後藤夜半

③フヨウ(芙蓉、Hibiscus mutabilis)はアオイ科フヨウ属の落葉低木。種名 mutabilisは「変化しやすい」(英語のmutable)の意。「芙蓉」はハスの美称でもあることから、とくに区別する際には「木芙蓉」(もくふよう)とも呼ばれる。
歳時記では、花芙蓉、白芙蓉、紅芙蓉、酔芙蓉とも一緒の項で秋の季語。

反橋の小さく見ゆる芙蓉かな 夏目漱石

スイフヨウ(酔芙蓉、Hibiscus mutabilis cv. Versicolor)は、フヨウの園芸品種。
朝咲き始めた花弁は白いが、時間がたつにつれてピンクに変色する八重咲きの変種であり、色が変わるさまを酔って赤くなることから。なお、「水芙蓉」はハスのことである。

花びらを風にたたまれ酔芙蓉 川崎展宏

10年ほど前韓国の昌徳宮を訪れた時に、余りにもガイドさんが綺麗だったので独吟半歌仙の中に酔芙蓉を詠ったことを思い出す。しかしアガシとチマチョゴリでは超付き過ぎ。

昌徳宮ガイドのアガシ酔芙蓉

敬語正きチマチョゴリなり

④オクラ(秋葵、英名Okra、学名:Abelmoschus esculentus)は、アオイ科トロロアオイ属の植物、または食用とするその果実。和名をアメリカネリと言い、ほかに陸蓮根(おかれんこん)の異名もある。
生あるいはさっと茹でて小口切りにし、醤油、鰹節、味噌などをつけて食べると美味しい。刻んだ時にぬめぬめした粘り気が出るが、この粘り気の正体は、ペクチンなどの食物繊維で、コレステロールを減らす効果をもっている。
誰かが納豆と刻んだオクラを混ぜて食べると、美味しいと言ったがまだ試していない。
花屋さんで苗を買い求め、プランターで栽培したことがある。黄色い美しい花が咲き、見事なオクラの実をつけた。
残念ながら季語でないようで歳時記には見あたらなかった。

⑤ワタ、綿・木棉(もめん)は、ワタの種子から取れる繊維。コットン(英語 cotton)。綿(ワタ)自体のことを木綿と呼ぶこともある。
綿は生活必需品として誰でも知っているが、ムクゲに似た黄色い花も綺麗でかつ種の白い綿の花畠も独特の美しさがある。どちらも綿花と呼ばれる。
歳時記では、綿そのものは秋の季語、綿の花は夏とややこしい。余談ながら、綿入れは衣類で冬。綿虫はアブラムシの一種、雪ばんばとも。これも冬の季語。

絆とは入日にしぼむ綿の花 福田甲子雄 (夏)

綿摘み、 綿の実 、綿吹く 、桃吹く などは秋の季語である。

蕾あり花あり桃を吹けるあり 三村純也 (秋)

⑥ケナフ (Kenaf, 学名:Hibiscus cannabinus) は、アフリカ原産のアオイ科フヨウ属の植物、またこれから得られる繊維をいう。洋麻、ボンベイ麻ともいう。この紙を使ったスケッチブックをよく買って、水彩画を描くのでお馴染みである。

さて、自分も妙正寺川両岸のタチアオイを見て駄句を詠んだ。例により冷や汗駄句、駄句。

新装の有平棒や立ち葵 杜 詩郎

自句解説。
立葵は、かなり背が高く、支えもいらずに真っ直ぐに上へ伸びる。床屋さんの看板である有平棒を彷彿させる。なんとなく似ているような。
すっくと立つタチアオイに出発、旅立ちや独立のイメージを重ねるのは、自分だけではないように思うのだが、どうか。句とすれば「新築の理髪店にあり立葵」の方が中七字余りながら素直か。自分の思いを句にするのは、いつものことだがたいへん難しい。

長い蛇足ながら。有平棒(あるへいぼう)について。
有平棒は、理髪店の店先に看板として据え付けられ、赤、白、青のらせん模様が回転する棒状の装置。ただし、製造メーカーは「サインポール」などと呼び、現代の理容師さんは有平棒という名を知らない方が多いらしい。
昔の西洋では理髪師を兼ねた外科医師の看板であったと、何かで読んだ覚えがある。白は包帯、赤は血、青は何だったか覚えていない。日本には明治初年に伝来。
ちなみに有平棒の名前の由来となったアルヘイ(alfeloa)はポルトガル語で、砂糖に水飴を加えて煮詰め、棒状にした砂糖菓子。ひねりを加えた形が、安土桃山時代にポルトガルから伝来した砂糖菓子有平糖(あるへいとう)とよく似ていたことから有平棒(あるへいぼう)となったとか。
英語圏ではバーバーズポール(Barber's pole)と呼ばれる。

我が散歩道の妙正寺川両岸は、近年、妙正寺公園入り口から1kmくらい下流まで植えられた枝垂れ桜が成長して、春にはみごとな花のトンネルになった。
体調が悪い時、運動不足を少しでも補おうと、この散歩道をよく歩く。歩きながらいつも、コンクリートで固められた川を元の自然の川に戻すコスト、社会的費用は、いくら位かかるのだろうか、と川砂利を流れるせせらぎの音などを、夢見る如くしみじみと思う。東京にこのような道は沢山あって、税金ではとても間に合わないだろうから、道筋の近くにいる奇特な大富豪がその気にならないか。実現したら、両岸にずらりとタチアオイを植栽していただきたいものだ。

2003年7月から2005年9月にかけて復元工事がなされ、ソウル市の清渓川(チョンゲチョン、全長約5.8km、漢江に合流する川。)が高速道路の暗渠の下から蘇生して市民の憩いの場になった話は心から羨ましい。
この原資は税金であろう。素晴らしい使い方だ。

image-20120612163111.png

nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。