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夜顔ー朝顔、昼顔、夕顔、月見草など [自然]

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門扉にぶら下げたポッドに春植えた夜顔(ヨルガオ)が、彼岸になってやっとひとつだけ花をつけた。酷暑で水が足りなかったのか育ちが悪く、途中でつけた花芽が落ちてしまい、たぶんもう咲かないだろうと諦めていたので何だか嬉しい。
かたや、一緒に植えた朝顔は、次々と毎朝咲いて一夏中楽しませてくれたのとは対照的だ。

ヨルガオ(夜顔)はヒルガオ科の植物の一種。学名Ipomoea alba。このヨルガオのことを「ユウガオ」という人もいて混乱するが、和名のユウガオ(学名Lagenaria siceraria )はウリ科の野菜(かんぴょうの原料となる)で全く別種である。
ユウガオの花はしわしわがあるが、今回咲いたヨルガオの花は同じ白色ながら絹の滑らかさで明らかに異なる。

アサガオ(朝顔、牽牛花、蕣、学名 Ipomoea nil 、英名morning glory)は、ヒルガオ科サツマイモ属の一年性植物で誰でも知っているが、このヨルガオ(夜顔)やヒルガオ(昼顔)の方はそうおなじみでもない。

ヒルガオ(昼顔、学名Calystegia japonica)は、ヒルガオ科の植物。アサガオとユウガオは、朝と夕に開花してしぼむが、こちらは昼になっても花がしぼまないのが特長。昼顔と名付けられた所以である。
よく道路脇のフェンスなどに咲いているのを見かけるが、アサガオやヨルガオと違って園芸店でもまず置いていない。どちらかといえば雑草扱い。やや不公平である。
海岸の砂地に美しく咲く浜昼顔というのもある。ハマヒルガオ(浜昼顔、学名Calystegia soldanella )はヒルガオ科ヒルガオ属の多年草。典型的な海浜植物である。「君の名は」の主題歌に登場する。
歌うのは織井茂子。1953年 作詞 菊田一夫 、作曲 古関裕而。

君の名はと たずねし人あり
その人の 名も知らず
今日砂山に ただ一人きて
浜昼顔に 聞いてみる

わが幼少の頃、田舎では夕顔といえばヨルガオのことでもなく、ウリ科の干瓢でもなく「月見草」のことだった。夕方黄色い花がたくさん咲いて、腹の太い蛾がホバリングしながら蜜を吸っていたのを想い出す。
この夕顔と呼んでいたツキミソウ(月見草、Oenothera tetraptera)は、アカバナ科マツヨイグサ属に属する多年草だというからややこしい。

マツヨイグサは「待宵草」だから竹久夢二(1884-1934)の「宵待草」(ヨイマチグサ)と同じものだろう。

待てど暮らせど来ぬ人を 宵待草のやるせなさ 今宵は月も出ぬさうな

太宰治の「富嶽百景」に書かれた月見草も、このマツヨイグサであったという。
「3778米の富士の山と、立派に相対峙し、みぢんもゆるがず、なんと言ふのか、金剛力草とでも言ひたいくらゐ、けなげにすつくと立つてゐたあの月見草は、よかった。富士には、月見草がよく似合ふ。」という文章は試験問題に出たりして有名だ。この中に出てくる金剛力草というのは、実際にそういう植物があるわけではない。太宰の造語で月見草が強い黄色い花だと言っているのだが、可憐なマツヨイグサをそういうのはちょっと無理があるように思うのは自分だけでは無いだろう。

元南海ホークス監督野村克也氏が、昭和50年(1975年)に史上初の通算2500本安打を達成した試合後のインタビューで「王、長嶋が太陽の下で咲くヒマワリなら、オレはひっそりと日本海に咲く月見草」、「おれはしょせん月を仰いで咲く月見草」と僻んで言った。これはむつけき野村と可憐な月見草のギャップがウケたものだが、太宰の富士と月見草はあまり感心した「付き」とは言えないように思う。だからありもしない金剛草などを持ち出したのでは、と勘繰る。かといって富士と桜では、陳腐ではある。ほかに富士にふさわしい花がありそうな気がする。
野村元監督には、「俺の花だよ月見草」という演歌があって自らが歌う。

http://www.youtube.com/watch?v=2Rc7eOyI_d4

夕顔といえば、やはり源氏に触れないわけにはいかないだろう。
「源氏物語」五十四帖の巻の一つ。第4帖。帚木三帖の第3帖。夕顔は、「源氏物語」に登場する作中人物の女性である。「常夏(ナデシコの古名)の女」とも呼ばれるとか。
巻名及び人物名の由来は、いずれも本帖の中で詠まれた和歌による。
心あてにそれかとぞ見る白露の光そへたる夕顔の花
寄りてこそそれかとも見め黄昏れにほのぼの見つる花の夕顔ありと見し夕顔のうは露は黄昏時(たそがれどき)のそら目なりけり

なお、源氏には朝顔もある。
「源氏物語」第20帖。これも巻名は光源氏と朝顔の歌による。
見しおりのつゆわすられぬ朝顔の花のさかりは過ぎやしぬらん

秋はてて露の籬(まがき)にむすぼほれあるかなきかにうつる朝顔

朝顔がムクゲ(槿)の古称でもあることから、まれに「槿(あさがお)」と表記されることがあるという。
朝顔はこの巻のヒロインともなっている作中人物。桃園式部卿宮の姫君。
一茶にこの朝顔の二首目を踏まえた句がある。
「源氏の題にて」として
夕がほや男結の垣にさく

ほかにも夕顔の良句がたくさんある。
夕顔に久し振なる月夜かな 一茶
風呂沸いて夕顔の闇さだまりぬ 中村汀女

俳句では夕顔がウリ科の一年生蔓草として夏の季語。夕顔の実は秋。干瓢のことである。
月見草、待宵草(まつよひぐさ)は、アカバナ科の二年草で、夏の夕方、葉腋に直径三〜四センチの白い四弁花を開き、翌朝しぼむと紅変する。
一般に黄色い花を開く待宵草、大待宵草を「月見草」と呼んでいると歳時記に解説が載っている。黄色でないマツヨイグサもあることが分かる。
開くとき蕋の淋しき月見草 高浜虚子

歳時記によれば「朝顔」(あさがお、蕣、牽牛花)は、熱帯アジア原産のヒルガオ科の一年生蔓草の花としてなぜかしら季は秋。それでいて東京入谷の鬼子母神境内で七月六日から八日まで開かれる「朝顔市」は夏。どういうことだろうか。「朝顔の実、種」はもちろん秋。
何と言っても千代女のー朝顔に釣瓶とられてもらひ水ーが名高いが、蕪村のこの句も好きだ。
朝がほや一輪深き淵のいろ 蕪村

「昼顔」はヒルガオ科の多年生蔓草のとして夏。浜昼顔も。
昼顔に電流かよひゐはせぬか 三橋鷹女
這ふものは強し砂丘の浜昼顔 鷹羽狩行

「夜顔」は歳時記にない。

さて、花と詩歌の話から一転して変わることになるが、かつて「昼顔」という映画があったのを思い出した。
「昼顔」(ひるがお)は、フランス語原題Belle de jour, 「日中の美女」の意味。カトリーヌドヌーヴ主演、1967年(昭和42年)のフランス・イタリア合作映画である。貞淑な上流階級の夫人が昼間に娼婦として働くという衝撃的テーマで評判となった。
ところが「夜顔」という映画もあると知ってびっくりした。
夜顔(よるがお)は、フランス語原題 Belle toujours, 「つねに美女」の意味。2007年(平成19年)公開のポルトガル・フランス合作映画である。ルイス・ブニュエル監督の「昼顔」の約40年ぶりの「続篇」ということであるが、マノエル・デ・オリヴェイラのオリジナルシナリオによる監督作品。いわば昼顔の40年後を描いたものか。「壮絶な老い」がテーマかと想像したりする。
いずれも見ていないが、何やら惹かれる映画2編ではある。

またまた、花から映画へと方向感なく彷徨ってしまった。











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