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ウィリアム・ブレイクの水彩画 [絵]

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最近、西脇順三郎の「野原をゆく」(毎日新聞社)という随筆で日本と西洋の芸術の違いが書いてあって面白く読んだ。とくに俳句の形式は一つが多くを象徴するという段に本当にそうだなと感心した。少しばかり長いが引用したい。

「日本の芸術は部分が全体を含むという幾何的には理論的ではないかも知れないが、そこに芸術の美があるのであろう。換言すれば部分が全体を象徴している。一つの中に多くが含まれている。換言すれば一つが多くを象徴している。一つが多くと調和されている。そこに日本の美の理論がある。曲がった枝先をみても永遠を感んじる。俳句の形式はそれである。有限の中に無限を象徴する理論である。一つの中に多くを象徴する。ブレイクという絵かきで詩人であった男がそういうようなことをいっている。しかしこれは一般西洋人のやりかたでない。彼らの芸術は全体から部分を表す。これは論理的で機械的であるが決して美妙ではない。
一を知って十を悟るというと道学者の言葉であるが、日本の芸術は恐らく一を感じて絶大を感ずることであろう。(四季の唄)」

さて、本題は芸術論でなく、ここに出てくるウィリアム・ブレイクの水彩画のことである。

ウィリアム・ブレイク(William Blake, 1757年ー1827年)は、イギリスの画家、詩人、銅版画職人。
「幻視者」(Visionary)の異名を持ち、「四人のゾアたち」「ミルトン」「エルサレム」などの「預言書」と呼ばれる作品群において独自の象徴的神話体系を構築する。詩の中では詩集「無垢と経験の歌」(The Songs of Innocence and of Experience)に収められた、「虎よ! 虎よ!」(Tyger Tyger)で始まる「虎」(The Tyger)がよく知られている。
晩年にはダンテに傾倒、病床で約100枚にのぼる『神曲』の挿画(未完成)を水彩で描いたという。

ブレイクは日本においては、明治に紹介され大正、昭和の詩や小説に大きな影響を与えた。
現代でも、若き日の大江健三郎がブレイクに傾倒し、その小説はブレイクから影響を受けたことがよく知られている。
なかでも短編連作集「新しい人よ眼ざめよ」(1983年)はミルトンの序にインスピレーションを得たとされ、収録された短編のタイトルは次の通りだが、すべてブレイクの作品に由来している。
1 無垢の歌、経験の歌
2 怒りの大気に冷たい嬰児が立ちあがって
3 落ちる、落ちる、叫びながら…
4 蚤の幽霊
5 魂が星のように降って、【アシ】骨のところへ
6 鎖につながれたる魂をして
7 新しい人よ眼ざめよ

ブレイクの詩の方は理解するのは難しそう。iPadでは青空文庫に詩が一つ収録されているので読むことが出来る。

笑いの歌 (ウィリアム・ブレイク William Blake吉田甲子太郎訳)
緑の森がよろこびの声で笑い
波だつ小川が笑いながら走ってゆく、
空気までが私たちの愉快な常談で笑い
緑の丘がその声で笑い出す。
牧場がいきいきした緑で笑い
きりぎりすが楽しい景色の中で笑う、
メアリとスーザンとエミリとが
可愛い口をまるくしてハ・ハ・ヒと歌う。
私たちが桜んぼとくるみの御馳走をならべると
その樹の蔭できれいな鳥が笑っている、
さぁ元気で愉快に手をつなぎましょう
うれしいハ・ハ・ヒを合唱しましょう。

さて、本題の水彩画である。ブレイクの水彩画は、2012年に渋谷の文化村ザ・ミュージアムで開催された「巨匠たちの英国水彩画展」にも展観されたようだが、行けずに見落としたのは昨年のわが痛恨事のひとつである。

iPadアプリで買った画集でブレイクの絵を探す。あるある。その数32枚。
もともと彼は銅版画職人、エッチングに水彩を使ったものが多いが、独特のテーマもさることながら、幻視者の異名を持つだけあって龍や怪人、怪獣?など描くものも怪異なものが多い。
しかし、色は優しいものが多く親しみやすいのもたくさんあるのには驚く。

代表的な絵は、
薄暗い海底で、ニュートンがコンパスを用いて科学的世界を解こうとしている不思議な絵(科学万能主義への痛烈な批判を描いたとされる)「ニュートン」(1795年)、
「日の老いたる者」(エッチングと水彩、1794年)、
「巨大な赤い龍と太陽の衣をまとった女」(The Great Red Dragon and the Woman Clothed in the Sun, 1803年 - 1805年頃) ブルックリン美術館蔵、
「最後の審判」(The Last Judgement, 1808年)、
ダンテ「神曲」の挿絵 (1824年 - 1827年)、
「無垢と経験のうた」のブレイク自身による彩飾本「虎」(The Tyger)(1794年)、などなどがある。

なかでも「巨大な赤い龍と太陽の衣をまとった女」がたいへん気に入った。ブルックリン美術館蔵やナショナルアートギャラリー美術館蔵にもあるようだ(注)が、良い絵だなと思う。
(注)ウィキペディアによれば、Blake's The Great Red Dragon and the Woman Clothed with Sun (1805) is one of a series of illustrations of Revelation 12. Watercolor


ヘルマン・ヘッセもそうだが、詩人の絵というのは、一見分かり易そうだが何やらを象徴しているようであり、その何やらまで理解しようとするのは、難儀である。自分にはとてもその力はないようだ。ヘッセの絵は表題がついていないものも多く、ついていても風景や花なので分かりやすいが、ブレイクのはとくに表題まで謎めく。
詩は易しい言葉なのに何かを象徴しており、難解だが、絵も目に入る形や色は解っても、何を表現しようとしているのか、考え込んでしまうものが多い。

よって、ああ、いいなと見とれ、気に入った絵を探すのみと、いう鑑賞の仕方になる。
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