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ラウル・デュフィの水彩画 [絵]

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ラウル・デュフィ(Raoul Dufy)は、北仏ノルマンディーのル・アーヴルの港町生まれで、歿年は1953年、75歳だった。
アンリ・マティス(Henri Matisse; 1869年-1954年)、アンドレ・ドラン(André Derain; 1880年-1954年)、モーリス・ド・ヴラマンク(Maurice de Vlaminck; 1876年-1958年)、ジョルジュ・ルオー(Georges Rouault; 1871年-1958年)らとともに野獣派(フォーヴィスム)に分類される。フォーヴは野獣の檻という意味だそう、その中にいるような気持ちになる絵とはどんな絵か。
フォーヴィスムは、色彩はデッサンや構図より上位にあり、画家の主観的な感覚を表現するためのものとして、自在に使われるべきであるとする。ルネサンス以降の伝統である写実主義から脱して、目に見える色彩ではなく、精神が感じる色彩を表現する。19世紀末の絵画に見られる陰鬱な作風とは対照的に、輝くような強烈な色彩で自由な雰囲気を創り出した。

デュフィは19世紀末から20世紀前半のパリを代表するフランス近代絵画家であるが、彼もまた「色彩の魔術師」と呼ばれる。アンリ・マティスに影響を受け、彼らとともに野獣派とされるが、その作風は他の野獣派とは違った独特の世界を構築している。

「私の歳時記」(杉本 秀太郎著 弥生書房 1979年)に「デュフィ画集の礼状」(西武美術館発行 1978年)という一章があり、デュフィの絵を理解するのに格好のものだが、その作風についてこう記している。
「多数を単一に還元して、いわば集合名詞的に物を捉えることをして、そのときの目の働きそのものから、絵の恒常的な両面性、即ちdynamiqueなものとstatiqueなものとを巧妙に析出し、この両面の同時成立というところに、絵にもうひとつ完成に近いレベルでのdynamicを賭けているーデュフィの作風には、そんなところがあるようにおもいます」
残念ながら表現が難解だが、何となく言わんとしていることはわかるような気がする。ダイナミックは線、静的なものが色彩か。

教科書風に言い換えれば、デュフィの絵は陽気な透明感のある色彩と、リズム感のある線描が画面から音楽が聞こえるような感覚を人に与える絵と評される。特に水彩画においてこれが顕著だ。みずみずしいほどの色彩は水と白い紙の「自然」から生まれる。ウオーターカラーそのもの。油彩で表現するのはたぶん至難であろう。
画題が音楽や海、馬や花をモチーフとして演奏会、競馬場、ヨットのシーンなどを描いていることが一層それを強く感じさせる。

オルガン奏者だった父、ヴァイオリン奏者だった母という音楽好きの家に生まれたこともあって、音楽にまつわる絵に惹かれるものが多い。モーツアルトやドビュッシーの名前入りの絵、楽器、演奏風景など。絵に旋律(メロディー)、拍子(リズム)、和音(ハーモニー)の音楽要素が溢れる。
上掲の杉本秀太郎の一文でもこれらの絵について触れている。
「電線を流れる電流が電線の外見を少しも変えないように、音楽は絵に少しもあらわれていないけれども、絵の中を通過していたのでしょう。もぬけの殻を見せつけられているわれわれこそ言い面の皮です」そしてデュフィのこのようなイロニー(皮肉)が大好きだと微苦笑する。

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さらにこの一文で、デュフィは左手で画を描いたと知って驚いた。「もともとは右利き 少年時代すらすらと事の運ぶ右手をきらって、左手の不器用さを活用することを思いつき。以来、左手の能力を極力開発した」と教わりさらに仰天。たしかにぎこちない筆致の方が魅力的だというのは分かるが、だからと言って利き腕を放棄する人は聞いたことが無い。
字は右手で書いたというが、デュフィの絵の特徴であるあの踊るような、流れるような軽快な描線は左手から生まれていたとは。

自分の水彩画の関心事で言えば、デュフィに学ぶことは多い。
線画水彩と、線を極力少なくして色彩を主体にする水彩と、どちらを目指すべきか長いこと迷走しているが、そんなことはつまらぬことと言われているような気がする。
デュフィにおいては、「線による形」と「面による色彩」の両方が自在に描かれ、色付きデッサン、線画淡彩の呪縛から解放されて、水彩画の「自由」を獲得しているように見える。鉛筆の線が中途半端に残るのが良くないのだ。デュフィの線は黒い線でなく、たくさんの色で描かれている!

デュフィは、水彩と油彩だけでなく、木版画の名手でもある。また本の挿絵、舞台美術、多くの織物のテキスタイルデザイン、莫大な数の室内装飾用織物(タペストリー)、陶器の装飾、ファッション誌「VOGUE」の表紙など多岐にわたるジャンルで才能を発揮した多才な芸術家である。これらの独特のカラフルな多くの作品群は今でも魅力的だ。

アポリネール「動物物語集ーまたはオルフェの供衆」の挿絵は デュフィの木版飾り絵と紹介されていたので、図書館で検索して借りて来たら「アポリネール動物詩集 児童図書館・絵本の部屋」(評論社)で、挿絵は山本容子であった。残念。






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