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ルナール「博物誌」の挿絵 [絵]

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ジュール・ルナール(Jules Renard, 1864年 - 1910年)は、フランスの小説家、詩人、劇作家。代表作は「にんじん」「博物誌」など。日本でも愛読者が多く、親しまれている作家の一人。46歳の若さで歿。

「博物誌」(Histoires naturelles)は、1896年、ルナールが32歳の時の作品である。
邦訳 では、辻 昶 (岩波文庫)、岸田国士 (新潮文庫)がある。青空文庫は岸田訳。
この本は、作者の身近な自然や生活を、孤高で一種独特の哀愁感を漂わせた文章で表現している。散文だが詩のようでもあり、軽妙なそれは、何かを比喩している様な、いないような風情で日本の俳文の趣きがある。

幾つかの章からなるが、短いものでは「蛇」や「蝶」、「蟻」などが人気もあり、すっかり有名になっている。

蛇 ( Le Serpent) 長すぎる。
蝶 ( Le Papillon) 二つ折りの恋文が、花の番地を捜している。
蟻 ( Les Fourmis) 一匹一匹が、3という数字に似ている。 それも、いること、いること! どれくらいかというと、333333333333……ああ、きりがない。

出だしは、次のように始まる。
影像の猟人 ( Le Chasseur d'images)朝早くとび起きて、頭はすがすがしく、気持は澄み、からだも夏の衣装のように軽やかな時だけ、彼は出かける。

犬、牛、馬、ろば、鳥などたくさんの動植物が出てくるが、猫と遊んで暮らしている身の自分としてはどうしても「猫」が気になる。
猫 ( Le Chat)私のは鼠を食わない。そんなことをするのがいやなのだ。つかまえても、それを玩具にするだけである。 遊び飽きると、命だけは助けてやる。それからどこかへ行って、尻尾で輪を作ってその中に坐り、拳固のように格好よく引き締った頭で、余念なく夢想に耽る。 しかし、爪傷がもとで、鼠は死んでしまう。

最終章は、つぎのように終わる。
樹々の一家 ( Une famille d'arbres)(途中略)私はもう、過ぎ行く雲を眺めることを知っている。 私はまた、ひとところにじっとしていることもできる。 そして、黙っていることも、まずまず心得ている。

ヨーロッパ人は虫の声や風の音に興味を示さない、と花鳥諷詠を得意?とする日本人が揶揄するが、そんなことはない。この「博物誌」を読めばよく分かる。表現法は異なるが、自然を感じ愛する心情は洋の東西で変わらない。

挿絵はピエール・ボナール。青空文庫はふつうあまり挿絵や図版は掲載されないが、「博物誌」は挿絵があって楽しい。
絵は墨絵のごとく黒一色。「ブラッシュ ワーク」というらしい。筆絵である。着色したら面白味が消えよう。文が俳文風で、挿絵は俳画と見まごうばかり。和風である。

ピエール・ボナール(Pierre Bonnard, 1867年 - 1947年 80歳 歿)は、ナビ派に分類されるフランスの画家。ナビ派(Les Nabis)は、ゴーギャンの影響を受け19世紀末のパリで活動した前衛的な美術家の集団。「ナビ」はヘブライ語で預言者を意味する。ポール・セリュジエ、モーリス・ドニなどポスト印象派とモダンアートの中間点に位置する画家たちである。絵画のみならず版画、ポスター、舞台美術などにも優れた作品を残している。
ボナールは、ナビ派の中でも最も日本美術の影響を強く受けたと言われる。画家仲間からは「ナビ・ジャポナール(日本かぶれのナビ、日本的なナビ)」と呼ばれていたほど。
ボナールの絵の平面的、装飾的な構成にはセザンヌの影響とともに、明らかに日本絵画の影響が見られる。たとえば、極端に縦長の画面の絵は中国、日本の掛軸の影響と思われ、人物やテーブルなどが画面の端で切る構図は、伝統的な西洋画にはあまりないもので、浮世絵版画の影響だと言われている。屏風絵のように何枚かに仕切られた油彩まである。
さすれば、「博物誌」の挿絵が墨絵、俳画に似ていて何の不思議もない。
ボナールはまた逆に日本にも影響を与えた。極め付けは竹下夢二。縦長の絵のなよなよした細い体つきの女性や黒猫。まさにボナールの世界である。

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2011年10月に三菱一号館美術館で開催されたロートレック展は、見逃してしまい今でも後悔している。ネットでその開催記事を見ていたらトゥルーズ=ロートレック(Henri de Toulouse-Lautrec、1864年 - 1901年)もルナール『博物誌』の挿絵(鹿、兎、かたつむりやねずみなどリトグラフ22点)を描いていることが紹介されていた。この展覧会にもうち何点か展示されたことを知って、あれれ、と思った。
企画にあたった三菱一号館美術館学芸員の話として、描かれた「動物たちからは、子供の頃から動物を愛し、終始あたたかな眼差しを注ぎ続けた、ロートレックのかわいい一面が伝わってきます」とある。
それは見ようによっては影絵風、墨絵風、そして文字が入っていて余白と絵の絶妙なバランスを楽しむ俳画風とも。
なかでも面白いのはロートレックの「博物誌」の表紙絵のキツネ。「ルナール」はフランス語で狐とか。ロートレックの得意そうな顔が眼に浮かぶようだ。

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ロートレックもボナールも、ともに日本美術の影響を受けた画家であるが、二人が俳文風のルナールの「博物誌」に俳画風の挿絵を描いていたとは。しみじみと面白い。
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