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ウィンスロー・ホーマーの水彩画 [絵]

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ウィンスロー・ホーマー(Winslow Homer, 1836年- 1910年 74歳で歿)は19世紀のアメリカを代表する画家。マサチューセッツ州ボストン出身。身辺の生活や自然を描くのを得意とした。
ホーマーは1863年頃つまり27歳には、既に油彩画家として多くの傑作を世に出して名をなしている。

ホーマーが水彩画を描くようになるのは、そのほぼ10年後の37歳(1873年)から。それ以前の水彩としては、画集には一枚だけ「Backyard,Summer」と題するものが載っていたが、制作時期が1871年-79年となっている。つまり試行的に描いて、その後も手を入れたのであろうかと想像したりして楽しい。大家にしても初めは迷ったのかと。

37歳の時の水彩画に「Sailing the Catboat 」(1873 watercolor)がある。その3年後の1876年に、たぶんその絵を見て描いたと思われる油彩による同じ構図の絵があるのを、画集で見つけた。「Breezing Up ,A Fair Wind 」(1876 oil on canvas)である。水彩画のcatboat」は一本マスト、一枚帆の船のこと。油彩画の題は「風が強まった、追い風だ」とでも訳すのか。
ふたつ並べて水彩と油彩の違いを考えるには、格好の材料だ。
①全体に水彩の方が明るい。油彩は海の色が濃く、空の雲の色も灰色の部分がある分だけ暗い印象になっている。水彩の船の甲板のブルーも絵を明るくしている。
②水彩は船の帆が簡略化・省略化されているが、油彩の方が詳細に写実的に描かれているので目がそちらに行く。風をはらんだ帆を見せてスピード感を感じさせる意図か。
③水彩の方が舵が大きく、波が油彩のようにたっていない。したがって船が滑るように走っている感じがする。海の波も油彩の方が少ないこともあって全体に水彩画の方が静かな感じがする。油彩の方は波の音などがする感じ。
④船の左側が傾いて海に浸っているところが、この絵の見せどころのひとつ。油彩の方が水に船の茶色が反射して映ったりしていて、リアルな印象だが、水彩の方も白い波がたち、船が傾いた状態を良く表現している。
これらの比較は、あくまで個人的なものでひとりよがりなものだ。人により見方は大きく変わるに違いない。
何より自分が強く感じるのは、油彩の迫力に劣らぬ「水彩の力強さ」である。

油彩、水彩の違いに関係はないと思うが、二つの絵を間違い探しの眼でみると幾つかある。まず水彩の乗員は1名多い5名である。油彩の方には船名「Gloucester」が描かれているが、水彩の方はない。グロスターはアメリカ 北東部ニューイングランドのマサチューセッツ州の小都市グロスターから付けたのであろう。
遠景は油彩が船で、水彩は半島に灯台らしきもの。油彩には空の高いところにカモメが一羽飛ぶ。また、油彩の船に釣果の魚が描かれているが、水彩の方は無い。ボーズだったらしい。


ホーマーはなぜ水彩画に転進したのか。その頃アメリカ水彩画家協会が設立され、水彩画が人びとに広く受け入れられていくのを見て、その可能性にかけたのだといわれている。しかし、この2枚の絵を見ていると、ホーマーは自分の目指すものが、油彩よりも水彩の方がより表現出来ると考えたように自分には思える。

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ホーマーの絵には好きなものが多いが、そのうち一部だけあげてみたい。
「Weary 」(1878 )太い木の幹に少女が一人肩を寄せていて、手に木を持ち杖のようについているので「疲れた」という題に訳している。明るい日差しと影、白の絵の具を効果的に使っている。wearyには物憂いという形容詞もあるが、絵はあくまで明るいからそちらではないだろう。
「Girl with a Hay Lake 」(1878 )ワシントンのナショナルギャラリー所蔵品。斜面に少女が乾草を作る時に使うレーキをかついでいる。光と影の対比が強烈。全体に油彩と言われても分からぬくらいの強い感じだ。
ホーマーには、ほかに「Hay Making 」(1864)、「The Return of the Gleaner」(1867)という似た油彩がある。gleanは収集すること。「乾草集めからの帰り」か。いずれも乾草を作るレーキを持たせた農民を描いている。好きな題材であったのだろう。

「Schooner at Sunset 」(1880 )スクーナーは帆前船のこと。同じ時期に描いた「Sunset at Gloucester」(1880)、「Sunset Fires」(1880)と似たような夕焼けの海と舟を描いた絵がある。3枚ともホーマーにしては、珍しく強烈な赤が強調された絵である。Gloucesterは、冒頭の2枚の絵のうち、油彩の方に船名として描かれたグロスター市。

「Daughters of the Sea」(1883)、「Insides the Bar ,Tynemouth 」(1883)
ホーマーは45歳のとき、つまり1881年から2年間イギリスノーサンバーランドの漁村カラーコーツに滞在して、漁村とそこで働く人達をモチーフにした水彩画を描いた。カラーコーツ作品といわれる150作からなる作品群で、この2枚もそのうちのもの。
カラーコーツ作品には特徴がある。はっきりした輪郭、省略による単純化、強い明暗の対比。顔料の種類も最小限におさえられており、多くは、イェローオーカー、バーントシェンナ、ライトレッド、プルシャンブルーで描かれているという。
Barは中州のことか。飲み屋ではない。

「Rest」(1885)、「Cabins, Nassau」(1885 )cabinは小屋、庵。海辺の別荘か。ナッソー(Nassau)は、バハマの首都。ニュープロビデンス島にある。
1885年、49歳のホーマーはフロリダ、キューバへ旅行する。これが転機となって、彼の絵に大きな変化が生じた。カリブ海の明るい光が画家の絵に大きな影響を及ぼし、画面が全体に明るくなり、透明感が増したことはよく知られている。
どれもそれを良く表している絵である。

「Two Trout 」(1891 )1889年にも同じ構図のものを描いている。
これは獲物を描いたものだが、ホーマーは風景画の中で大きな釣られた、あるいは跳ね上がる鱒を点景というより景色と同格の扱いで描いているのがあって、微笑ましい。
「On the Trail 」(1892 ) 「追跡中」と訳すか。猟犬と共に獲物を探している図。
「Fallen Deer 」(1892)仕留められた鹿か、追われて単に川に落ちてしまった鹿か。これらの一連の絵は、釣り、猟、セーリングなど人と自然の営みを描いて、アメリカ水彩における野生動物を含めた独特の伝統を作り上げたのが、ホーマーであることを納得させる。

「Under the Coco Palm 」( 1898)明るい南国の空気。空の青と右上の赤色が印象的。
「Homosassa River」(1904)Brooklyn Museum of Art 所蔵。ホモサッサ川はマナティで有名なフロリダの観光地。ホーマーは椰子の木の絵を多く描いている。
海や川、高く細い椰子の木、そこに吹く風、ボートの釣り人、ルアーの釣り糸が空を切る。見ていて飽きない。ほかにも惚れ惚れとする椰子の木の絵が沢山ある。好きである。

ところで、自分が見ている画集には、ホーマーの絵が480枚ほどあるが、何故かなかにヌードが一枚もない。
理由は不明ながら、珍しいのではないかと思う。
同じ水彩画家のワイエスなどはふんだんにあるのだが。ホーマーにあれば見てみたい気がする。また、自画像もない。
ヌードと自画像を描かないと、絵、とくに人物画は上手ににならないと誰かが言っていなかったか。
ホーマーの風景も動物も素晴らしいが、一緒に描かれている人物もじつに味があって良い絵が多い。
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