メアリー・カサットとドガの水彩画 [絵]
メアリー・スティーヴンソン・カサット(Mary Stevenson Cassatt, 1844年- 1926年)は、アメリカの画家・版画家。ベルト・モリゾより3歳下の生まれ。モリゾは51歳で亡くなったが、カサットは82歳の長寿を全うした。
イタリア、スペインなどの西欧絵画を勉強、マネをはじめとする印象派に学んだ。フランスで生活することが多く、そこで最初に友人になったエドガー・ドガから強い影響を受けた。中でもドガのパステルに感化されて家族の生活や母と子の像などを油彩の他パステル画でたくさん描いた。力強いタッチが独特である。
また、日本の浮世絵に感動し、自ら版画の制作にまで乗りだしドライポイント アクアチント (いずれも版画技法)による水彩画風の版画も制作したことでも知られる。
パリで活動したアメリカ人の女性の画家であり、印象派の展覧会にも出品している。
ベルト・モリゾと並ぶ初期の女流作家だが、後にアメリカの絵画コレクターたちに対するアドバイザーとして、印象派絵画を世界に広めた功績者という一面がある。
カサットには水彩画が少ない。油彩のための習作もほとんどがパステルだったのであろうか。
ドガとカサットと並べるとすれば、多分ドガが先であろう。カサットを先にしたのは、特段の意味はない。はじめ自分は彼女を水彩画家と誤解していて、カサットだけを単独で取り上げようと思っていた。
水彩を始めた頃、気になった水彩画が何枚かあり、PCファイルに保存していた中にカサットの絵が2枚あった。「イタリア女性の肖像」と「少女-緑の背景」である。
しかし、今回あらためて画集を見ると、この他には水彩画はほとんどなくパステル画が圧倒的に多い。
そのパステルはドガの影響を受けたのだという。ドガとカサットは師弟ではないが、マネとモリゾのようにその交友を語られることがしばしばある。
「Profile an Italian Womanイタリア女性の肖像」 (1873 水彩)
「Self Portrait 自画像」(1880 Pastel Watercolor on ivory wove paper )ウオーブ紙は織ったような紙か。
「Mother and Child 母と子」(1889 水彩)
「Head of Francoise Looking Downうつむくフランソワ 」(1908 水彩)
「Girl's Head -Green Background 少女像-緑の背景」(Date Unknown 水彩)
「Head of a Young Woman 若い女性」(Date Unknown 水彩)
水彩画が少ないので、油彩、版画、パステルの傑作を並べた。
「The Child's Bath 子供の湯浴み」(1893 油彩)代表作のひとつ。
「Woman Bathing髪を洗う女性 」(1890-91 Drypoint and aquatint on paper)版画を一枚だけ。どこか浮世絵風かつ淡彩風。
「Sketch of 'Ellen Mary Cassatt in a Big Blue Hat'青い大きな帽子のエレン・メアリーカサットのスケッチ」(1905 油彩)油彩のスケッチ、クロッキー?とは珍しい。早い線のタッチがアマチュアにも参考になる。
「Elsie in a Blue Chair青いチェアのエルス 」(1880 パステル)「青い肘掛け椅子の少女」(1878 油彩、カサット34歳の作品)が代表作だが、2年後に描かれたこのパステル画も独特のブルーが何とも好ましい。
一方のエドガー・ドガ(Edgar Degas 1834年 - 1917年83歳没)は、フランスの印象派の画家、彫刻家。踊り子の画家として高名だから説明を要しまい。
ドガとカサットの二人の共通点はパステル画が多いことだけでなく幾つかある。ひとつは、二人とも他の印象派と異なって外光主義でなく屋内派ということである。
ドガは眼が弱かったからとも言われるし、カサットは母子像などが主たるモチーフだったからということもあろう。
もうひとつは、二人とも長寿だったことである。カサットの晩年の絵はあまりないようだが、ドガは高齢になっても絵を描いた。油彩は力仕事だが、パステルは高齢画家に適した画材だったのかもしれない。
ちなみに、オルセー美術館学芸員のアンリ・ロワレット 著「ドガ 踊り子の画家 」(「知の再発見156 」創元社 2012)によれば、「60年近いドガの画家生活を見わしたとき、強い印象を受けるのは、彼と同じくらい長生きした同時代の画家モネやルノアールとは異なり、彼が決まった様式、既に完成した様式にまったく頼らず、得意客に受け入れられた成功作を少しずつ増やしていくこともしなかった点である」
とあるからドガの晩年の絵にはことさら興味が湧くところ。また、花や香水、犬猫などペットなど、はては、子供も好きではなかったと知ると、家族や愛犬に囲まれたカサットとは対照的でさぞ辛く長い晩年であったろうと想像する。
さて、ゆっくりとドガの画集を見るとやはり素描力と色彩には驚くべきものがあるし、自然光でなく照明など人工の光、ときに逆光などの扱いには独特のものがある。
我が画集には、さすが巨匠、800枚近い絵があるが、油彩とパステルばかりで水彩画はごく少ない。これもカサットと共通している。
「View of Naples ナポリの眺め」(1860 水彩)
「Exit from Weighing 計量所の出口」(1866 水彩)競馬場や騎手は、踊り子、湯浴み裸婦、洗濯する女性などと並びドガが生涯執着したテーマの一つ。
「Carlo Pellegrini 」(1876-77 Watercolor with oil and pastel )不学にしてカルロ・ペレグリニが何者か分からぬ。油彩とパステルによる水彩とは、如何なるものか!
「Two Ballet Dancers二人の踊り子 」(1879 パステルとグワッシュ)踊り子には、不透明水彩とパステルが合うのだろうか。
「Ballet Sceneバレエ シーン」( 1880 水彩とパステル)コンテクレヨンと鉛筆のうえにwatercolorで着彩している。背景が水彩、衣装部分がパステルか。日本趣味の扇形。
「Study for Classical Painting 古典絵画の習作」(Date unknown 水彩)
ドガとカサットの交友関係は複雑なものであったと言われる。二人の個性が芸術を巡ってぶつかり合ったのであろう。
「Portrait Mary Cassatt メアリー・カサットの肖像 」(1880-84 油彩)モデルをつとめたカサットは、品がないとこの絵を嫌ったという。カサットの描く女性像を見れば、何となく分かるような気もする。
「The Star , or Dancer on the Stage スター、または舞台の踊り子」(1876 パステル)ドガの代表作のひとつ。
「Landscape 風景 」(1892年頃パステル)晩年期の小品(51×50.5cm)。色々な解釈のある風景画。
「 自画像 」(1855 油彩)画家21歳、エコール・デ・ボザール(官立美術学校)で絵を学び始めた若い頃のもの。
水彩画という切り口でドガとカサットを見ようとしたが、水彩画が少なく残念。
むろん、どんなマテリアルであれ二人の絵は素晴らしく見ていて愉しいし、アマチュアにも勉強にはなるのだが。
パステルを勉強している人には、たまらなく魅力的な二人であろう。自分ももう少し若ければ、パステルに挑戦してみたいと思うような良い絵が多い。
イタリア、スペインなどの西欧絵画を勉強、マネをはじめとする印象派に学んだ。フランスで生活することが多く、そこで最初に友人になったエドガー・ドガから強い影響を受けた。中でもドガのパステルに感化されて家族の生活や母と子の像などを油彩の他パステル画でたくさん描いた。力強いタッチが独特である。
また、日本の浮世絵に感動し、自ら版画の制作にまで乗りだしドライポイント アクアチント (いずれも版画技法)による水彩画風の版画も制作したことでも知られる。
パリで活動したアメリカ人の女性の画家であり、印象派の展覧会にも出品している。
ベルト・モリゾと並ぶ初期の女流作家だが、後にアメリカの絵画コレクターたちに対するアドバイザーとして、印象派絵画を世界に広めた功績者という一面がある。
カサットには水彩画が少ない。油彩のための習作もほとんどがパステルだったのであろうか。
ドガとカサットと並べるとすれば、多分ドガが先であろう。カサットを先にしたのは、特段の意味はない。はじめ自分は彼女を水彩画家と誤解していて、カサットだけを単独で取り上げようと思っていた。
水彩を始めた頃、気になった水彩画が何枚かあり、PCファイルに保存していた中にカサットの絵が2枚あった。「イタリア女性の肖像」と「少女-緑の背景」である。
しかし、今回あらためて画集を見ると、この他には水彩画はほとんどなくパステル画が圧倒的に多い。
そのパステルはドガの影響を受けたのだという。ドガとカサットは師弟ではないが、マネとモリゾのようにその交友を語られることがしばしばある。
「Profile an Italian Womanイタリア女性の肖像」 (1873 水彩)
「Self Portrait 自画像」(1880 Pastel Watercolor on ivory wove paper )ウオーブ紙は織ったような紙か。
「Mother and Child 母と子」(1889 水彩)
「Head of Francoise Looking Downうつむくフランソワ 」(1908 水彩)
「Girl's Head -Green Background 少女像-緑の背景」(Date Unknown 水彩)
「Head of a Young Woman 若い女性」(Date Unknown 水彩)
水彩画が少ないので、油彩、版画、パステルの傑作を並べた。
「The Child's Bath 子供の湯浴み」(1893 油彩)代表作のひとつ。
「Woman Bathing髪を洗う女性 」(1890-91 Drypoint and aquatint on paper)版画を一枚だけ。どこか浮世絵風かつ淡彩風。
「Sketch of 'Ellen Mary Cassatt in a Big Blue Hat'青い大きな帽子のエレン・メアリーカサットのスケッチ」(1905 油彩)油彩のスケッチ、クロッキー?とは珍しい。早い線のタッチがアマチュアにも参考になる。
「Elsie in a Blue Chair青いチェアのエルス 」(1880 パステル)「青い肘掛け椅子の少女」(1878 油彩、カサット34歳の作品)が代表作だが、2年後に描かれたこのパステル画も独特のブルーが何とも好ましい。
一方のエドガー・ドガ(Edgar Degas 1834年 - 1917年83歳没)は、フランスの印象派の画家、彫刻家。踊り子の画家として高名だから説明を要しまい。
ドガとカサットの二人の共通点はパステル画が多いことだけでなく幾つかある。ひとつは、二人とも他の印象派と異なって外光主義でなく屋内派ということである。
ドガは眼が弱かったからとも言われるし、カサットは母子像などが主たるモチーフだったからということもあろう。
もうひとつは、二人とも長寿だったことである。カサットの晩年の絵はあまりないようだが、ドガは高齢になっても絵を描いた。油彩は力仕事だが、パステルは高齢画家に適した画材だったのかもしれない。
ちなみに、オルセー美術館学芸員のアンリ・ロワレット 著「ドガ 踊り子の画家 」(「知の再発見156 」創元社 2012)によれば、「60年近いドガの画家生活を見わしたとき、強い印象を受けるのは、彼と同じくらい長生きした同時代の画家モネやルノアールとは異なり、彼が決まった様式、既に完成した様式にまったく頼らず、得意客に受け入れられた成功作を少しずつ増やしていくこともしなかった点である」
とあるからドガの晩年の絵にはことさら興味が湧くところ。また、花や香水、犬猫などペットなど、はては、子供も好きではなかったと知ると、家族や愛犬に囲まれたカサットとは対照的でさぞ辛く長い晩年であったろうと想像する。
さて、ゆっくりとドガの画集を見るとやはり素描力と色彩には驚くべきものがあるし、自然光でなく照明など人工の光、ときに逆光などの扱いには独特のものがある。
我が画集には、さすが巨匠、800枚近い絵があるが、油彩とパステルばかりで水彩画はごく少ない。これもカサットと共通している。
「View of Naples ナポリの眺め」(1860 水彩)
「Exit from Weighing 計量所の出口」(1866 水彩)競馬場や騎手は、踊り子、湯浴み裸婦、洗濯する女性などと並びドガが生涯執着したテーマの一つ。
「Carlo Pellegrini 」(1876-77 Watercolor with oil and pastel )不学にしてカルロ・ペレグリニが何者か分からぬ。油彩とパステルによる水彩とは、如何なるものか!
「Two Ballet Dancers二人の踊り子 」(1879 パステルとグワッシュ)踊り子には、不透明水彩とパステルが合うのだろうか。
「Ballet Sceneバレエ シーン」( 1880 水彩とパステル)コンテクレヨンと鉛筆のうえにwatercolorで着彩している。背景が水彩、衣装部分がパステルか。日本趣味の扇形。
「Study for Classical Painting 古典絵画の習作」(Date unknown 水彩)
ドガとカサットの交友関係は複雑なものであったと言われる。二人の個性が芸術を巡ってぶつかり合ったのであろう。
「Portrait Mary Cassatt メアリー・カサットの肖像 」(1880-84 油彩)モデルをつとめたカサットは、品がないとこの絵を嫌ったという。カサットの描く女性像を見れば、何となく分かるような気もする。
「The Star , or Dancer on the Stage スター、または舞台の踊り子」(1876 パステル)ドガの代表作のひとつ。
「Landscape 風景 」(1892年頃パステル)晩年期の小品(51×50.5cm)。色々な解釈のある風景画。
「 自画像 」(1855 油彩)画家21歳、エコール・デ・ボザール(官立美術学校)で絵を学び始めた若い頃のもの。
水彩画という切り口でドガとカサットを見ようとしたが、水彩画が少なく残念。
むろん、どんなマテリアルであれ二人の絵は素晴らしく見ていて愉しいし、アマチュアにも勉強にはなるのだが。
パステルを勉強している人には、たまらなく魅力的な二人であろう。自分ももう少し若ければ、パステルに挑戦してみたいと思うような良い絵が多い。
2013-10-06 15:53
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