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ロセッティとバーン ・ジョーンズの水彩画 [絵]

ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ(Dante Gabriel Rossetti, 1828年-1882年、54歳没)は、19世紀のイギリスの画家・詩人。1848年、J.E.ミレイらとラファエル前派を結成した。
ラファエル前派(ラファエルぜんぱ、Pre-Raphaelite Brotherhood)は、19世紀後半の西洋美術において、印象派とならぶ一大運動であった象徴主義美術の先駆と考えられている。

ロセッティは、他のラファエル前派の画家たち同様、聖書、伝説、文学などに題材を求めた作品を多く描いたが、技法的には仲間の他の画家たちのような徹底した細密描写は得意でなかったとされ、人物像の解剖学的把握にもやや難があると評される。全体として装飾的・耽美的な画面構成の作品が多い。
ラファエル前派結社は、短命で数年で解散するが、解散後も多くの若い画家をひきつけた。それらのなかで最も有名なのがエドワード・バーン・ジョーンズである。かれは、ラファエル前派の特徴をすべて自分のものとし、いわばもっともラファエル前派的な作風を展開した画家といえる。

バーン・ジョーンズ(Sir Edward Coley Burne-Jones, 1833年 - 1898年、65歳没)は、ロセッティより5歳歳下になる。ロセッティは早くからバーン・ジョーンズの才能に注目し、その成長に期待して援助を惜しまなかった。二人は師弟関係になる。
二人の絵はアマチュアが見ても何処か似ているように見えるが、特に描かれた女性は雰囲気もそっくりなものもある。ラファエル前派ではないが、「マーメイド」や「シャロットの女」で有名なジョン・ウィリアム・ウオーターハウス(1849-1917)の描く女性も似ているのは偶然ではなく、何らかのかたちで影響を受けているのであろう。

ロセッティ、バーン・ジョーンズの二人とも、神話や物語を題材にして幻想的で優雅な女性美を追求したところが共通しており、風景画や静物画は殆ど残されていない。

多くの女性像を描いただけに、 画家を取り巻く実際の女性関係も華やかなことまで共通している。
ロセッティの生涯はエリザベス・シダルとジェーン・バーデンという2人の女性との関係が有名である。
エリザベス・シダルは長い婚約期間の後、ロセッティの妻となった女性で、ロセッティの代表作の一つである「ベアタ・ベアトリクス」など多くの作品のモデルとなっている。またミレーの代表作「オフィーリア」のモデルもシダルである。後に自殺しているー。
一方のジェーン・バーデンは、19世紀イギリスの装飾芸術家・デザイナーとして著名なウィリアム・モリス(1834年-1896年)の妻となった女性であり、「プロセルピナ」をはじめとするロセッティの多くの絵でモデルを務めている。モリスはバーン・ジョーンズと親友である。
ジェーンはロセッティが終生追い求めた理想の女性であったとされ、男を破滅に追いやる「ファム・ファタル」(femme fatal=運命の女)の一例とされている。

バーン・ジョーンズの方は、糟糠の妻ジョージアーナ、恋人のギリシャ医師の妻マリア・ザンバコ、晩年の画家のお気に入りの美女、フランシス・ホーナー、ジュリア・ジャクソンと華麗である。
ジョーンズは嘯く。
「私が好む女性に二種類ある。とても善良な金髪の女性と、極めて意地悪な女性ーオート麦の髪色をしたセイレーン、まったくの悪女だ」「バーン・ジョーンズ 生涯と作品」(川端康雄、加藤明子著 東京美術社 2012)

彼のファム・ファタールは、さしずめ不倫の恋のあげく自殺未遂騒動を演じたマリア・ザンバコであろう。
二人とも彼女らをモデルに、多くの女性像を精巧で美しい芸術作品に作り上げた。

二人には、グワッシュを含め水彩画が多くあるのも共通している。エスキース(下絵)でなく本格的な水彩画のタブローも沢山ある。

二人は相異点もある。
ロセッティは、人物像のデッサン力が云々されるが、ヌードが極端に少ないのは特徴ではないか。ほとんどの女性が顔、頭部、胸像、着衣の全身像である。彼の描く女性の首の太さ、肩の逞しさは際立っている。
一方のバーン・ジョーンズは裸婦も多い。自分から見ると、ロセッティとおなじで体に比して頭が小さいと思う。八頭身どころではない。見ていると劇画の北斗の拳を彷彿とさせる。しかし、バーン・ジョーンズの場合は、あまり不自然さは感じないから、デッサンは正確なのであろう。
これらを念頭に二人の画を並べて見るとそれぞれ興味深い。

まずロセッティから。

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「Portrait of Elizabeth Siddal シダルの肖像」(1852水彩)画家24歳の作品。
「Portrait of Elizabeth Siddal シダルの肖像」(1850- 1865 水彩)
「Dante's Vision of Rachel and Leah 」(1855 水彩)
「A Christmas Carol クリスマス キャロル」(1857 水彩)
次の3枚は、ロセッティの数少ないヌードを集めた。アマチュアが見ても、バーンズの方が上手に見える。
「Venus Verticordia 」(1867 水彩)
「Ligeia Siren リゲイア・サイレン」(1873 チョーク)
「The Rainbow 虹」(1876 chalk )
次の2枚は、同じ絵で画材が異なる。大きさもほぼ同寸。透明と不透明水彩の受ける印象は殆ど変わりが無いと分かる。
「The Loving Cup 愛のコップ」(1867 水彩とボディカラー)
「The Loving Cup 愛のコップ」(1867 グワッシュ)

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「Monna Rosa モンナ・ロサ」(1867 水彩 )
「Lady Lilith レディ リリス」(1868 水彩 )エリザベス・シダルと題する画集もある。油彩画と見まごう艶。
「Golden Tresses 金髪」(1865 水彩)
「The Harp Player ,a study of Annie Miller」 ( 1872 水彩、グヮッシュ)これはエスキース(下絵)か。魅力的な良い絵だ。
「pandora パンドラ」(1879 水彩)
「Beatrice ベアトリーチェ」(1879 )ダンテの永遠の恋人。モデルはシダル。記載がないが油彩であろう。
「Proserpineプロセルピナ 」(1877 油彩)プロセルピナはギリシャ神話の悲劇の女神。冥府の女王。モデルは、モリスの妻、ジェーン・バーデン。ロセッティの代表作の一つ。
「Rossetti Lamenting the Death of his Wombat 」(1869 pen and ink )ウオンバットは、哺乳動物。カンガルー目ウオンバット科。ロセッティが飼っていたのであろうが、死んでしまい泣いている図である。おかしい。バーン・ジョーンズの戯画に似ている。
「自画像 」(1855 ペン )ロセッティ27歳。

バーン・ジョーンズは、モリス商会のステンドグラスも作成した。オールド ウオーターカラー協会の会員として水彩画を多く描いているが、油彩の傑作も多い。以下水彩画を中心に。

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「Sidonia von Bork シドニア・フォン・ボルク」(1860 水彩)バーン・ジョーンズ27歳の作品。マインホルト「魔女シドニア」より。
「Cinderella シンデレラ 」(1863 水彩)片方の足が裸足。まだ幸運を知らぬ。
「Cupid and Psyche クピドとプシュケ」(1865-67 水彩)「プシュケを見つけたキューピッド」ギリシャ神話に登場するクピドとプシュケ。画家がマリア・ザンバコと出会う契機となった作品として知られる。絵の依頼者の娘がザンバコだった。
同じ題材の次の3枚の絵は、構図は同一だが素材がそれぞれ異なるので並べた。微妙に感じが違うといえども大差はない。プシュケが開けたという、左下の冥府の眠りの入った小箱の煙がみな違うのが気になる。大きさもほぼ同じ。
ミックスメディアは油彩が入っているのだろうか。
「Cupid Delivering Psyche 」(1867 mixed media 52×61cm)
「Cupid Delivering Psyche 」(1867 水彩、パステル 77×92cm)パステルは、プシュケの上半身の白か。
「Cupid Delivering Psyche 」( 1867 グワッシュ 76×91cm)感じは油彩。
「Choristers and Musicians 聖歌隊員と音楽家」(1868-71 水彩)水彩とは思えない色つや。緻密だ。
「Portrait of Maria Zambaco マリア・ザンバコの肖像」(1870)素材はボディーカラー。水彩画のようにも見える。
「Night 夜」(1870 水彩)バーン・ジョーンズには浮遊する女性の絵が何枚かあり、モローを想起させる。次の「宵の明星」も同じ。

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「Hesperus, The Evening Star 宵の明星」(1870 グヮッシュ)
「Sleeping Beauty 眠れる美女」(1871 水彩、ボディカラー、金)バーン・ジョーンズは、油彩で眠り姫の絵を多く描いた。これは珍しく水彩。
「Temperantia 」(1872 水彩)縦152cm(幅58cm)の大きな絵である。金色基調の好きな絵。テンペランティアが何か不学にして分からぬ。キリスト教の節制、時間と関係あるらしいのだが。

「The Doom Fulfilled 運命遂行」(1882 グワッシュ)代表作ペルセウスシリーズのひとつ。一般には「成敗」と訳す。「海蛇を殺すペルセウス」という別題がある。
「The Depths of the Sea 海底」(1887 水彩)右上の小魚の群れがリアル。「深海」、「海の深み」とも訳す。水夫を引き込むセイレーンの微笑が不気味。
「An Angel Playing a Flageolet フラジオレットを吹く天使」(date unknown 水彩、グワッシュ)フラジオレットは縦笛。
「Cat and Kitten 猫と仔猫」(date unknown 水彩 )kittenは仔猫。猫の親子か、バーン・ジョーンズには珍しい変な絵。
「King Cophetua and the Beggar Maid コフェチュア王と乞食娘 」(1884 油彩)テニスン「乞食の少女」より。画家の代表作の油彩画の一枚。「英国人が描いた最上の絵画のひとつ」と称えられる。
「Cartoon of William Morris Reading Poetry to Edward Burne-Jones 」(date unknown ペン)バーン・ジョーンズに詩を読むウィリアム・モリスの戯画。Cartoonは漫画。
「William Morris at his room ,caricature 部屋のウィリアム・モリス、漫画」(date unknown ペン )
「バーン・ジョーンズ像」(制作年不明 )息子フィリップ ・バーン ・ジョーンズ(画家)の描いたエドワード ・バーン・ジョーンズの肖像画。

ロセッティもバーン・ジョーンズも神話や詩、物語から絵画の美、とりわけ女性美を追求した。
人は文学を読み、文章からそれぞれに主人公や種々の場面を想像する。画家はそれを巧みに表現して人の前に呈示して想像を助けてくれる。時に読んだときの想像と違うこともあり得るが。
自分のように、ギリシャの神話や中世の物語を知らずに鑑賞しても、楽しみは半減するのだろう。画家が憧れた美女のモデルの裏話なども、鑑賞の手助けにはあまりならない。

セザンヌは「絵画は文学と切り離さなければ、その純粋性を保つことはできないのだ」と言った。確かにセザンヌの描いたリンゴや風景を見る方が、気が楽である。
ロセッティもバーン・ジョーンズも、そのセザンヌ論とは対照ともいえる美術を追求したことになる。
確かに二人の描く美女たちは美しい。見慣れると劇画風の異様さもその美しさの方が勝ってくる。
セザンヌの嫌った文学臭の強い絵も、それはそれでまた魅力的ではある。美術論はさておいて、どちらも良いと思う。アマチュアの絵の鑑賞としてはそれで良いとしよう。




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