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ワイエスファミリーの水彩画(2/4)ー A natural watercolorist A・ワイエス [絵]

アンドリュー・ワイエス(Andrew Wyeth 1917 - 2009 92歳で歿)は、20世紀のアメリカン・リアリズムの代表的画家であり、アメリカの国民的画家。Watercolor Artstの巨匠。
日本においてもたびたび展覧会で紹介され、油彩、水彩画家として人気の高さは圧倒的である。
アンドリュー・ワイエスは1917年、ニューヨーク市の南東、ペンシルベニア州フィラデルフィア郊外のチャッズ・フォードに生まれ、父NCワイエスから絵を習った。

A・ワイエスの絵は、自分など本格的なアマチュアにとって本格的水彩であり過ぎ、参考にしようがないレベルの高さなので云々言うのもはばかれる。
気になりながらも、取り上げるのに躊躇しているのはそのせいである。もっともこの戸惑いは、何もワイエスにかぎったものではなく、いつものことではあるが。
手すさびの水彩画に役に立ちはせぬかと、お遊びで先達の水彩画を見ているだけなので、気にする方が可笑しいかと思い直す。
あちこち的外れ、間違いもあって見る人が見れば噴飯ものであることもちろん自覚している。

A・ワイエスの画集は時折みるが、その度にてすさびといえ絵を描こうとする意欲が萎える。上手の絵に会うとやる気を失くすることがあるが、あれの強烈なやつである。
多分プロの水彩画家は、みんなワイエスを一度は徹底研究するのではないかと推察する。沈んだような深い色、繊細かつ軽やかな線、どうしたらこういう色や線が描けるのか、日夜試して見るに違いない。

A・ワイエスは水彩画家として知られているが、傑作の「クリスティーナの世界」など有名な絵はテンペラ画が多い。義兄の画家ピーター・ハード(長姉ヘンリエッタの夫)に教えて貰ったというエッグテンペラ(バインダーが卵)である。
テンペラも同じ水溶性だから水彩の一種とも言える。描いたことがないので確たる自信はないけれども、バインダー(媒体)がアラビア糊などである透明水彩 (Watercolor) 、不透明水彩 (Gouache )とは明らかに異なるようだ。不透明で塗り重ねが出来るというが、細かい線の表現が可能らしく緻密な絵が多い。
しかし一方で透明水彩のようにドライブラシやにじみ、ぼかしは出来なさそうである。

透明水彩では筆に最小限の水しか含ませず、紙の上に絵の具をかすらせるように置いていく技法をドライブラシという。
筆に含んだ水分と絵の具の量や筆圧などを調整すれば、表現にはかなりの幅が出せる。適切な表情を自在に出すには、経験による熟達がいる。A.ワイエスはこの技法に長けた作家といわれる。ドライブラシを駆使した透明水彩の傑作も多い。

A・ワイエスの絵のもうひとつの特徴は、ストイックともいえる静謐で神秘性を帯びた、独特の精神性の高さであろう。
A・ワイエスは自宅のある、生地チャッズ・フォードと、別荘のある東部メーン州クッシング二つの場所以外にはほとんど旅行もせず、彼の作品はほとんどすべて、この二つの場所の風景と、そこに暮らす人々とがモティーフになっている。名作の「クリスティーヌの世界」や妻に隠して描いたというヌードなどがよく知られている。
たぶん画家をナチュラル ウォーターカラーリストと呼ぶのがいちばんふさわしいだろう。
しかし、それだけでは何か物足りない感じもする。
父NCや息子ジャミーも名をなした画家だが、A.ワイエスの絵にはひときわ高い精神性があるように思うのである。
それにしても、三人の絵がどう響き合いどこが違うのか、興味は深まることには変わりはない。

A・ワイエスは見渡す限りの大草原の中で生きる「アメリカの田舎の孤独」を描いたが、対照的に「アメリカの華やかな大都会の孤独」を描いた画家E・ホッパー(1882-1967)としばしば並び語られる。

参考記事 エドワード・ホッパーの水彩画
http://toshiro5.blog.so-net.ne.jp/2013-11-06

ワイエスは自らのメランコリックな気分を払拭するように、心の内部に物語の世界を育てては画面に立ち向かったという。長寿だったこともあり、多作である。
彼が「憑かれたごとく」絵を描き続けるのは、そうしなければ、迫ってくる得体の知れぬ孤独感に押しつぶされてしまうという恐怖感もあったとされる。絵からは無常観のようなものさえ漂う。

ワイエスの言からもそれをうかがうことができる。いわく・・。

「平凡なことがいい。だが、それを見つけるのは容易なことではない。平凡なものに信頼を置き、それを愛したら、その平凡なものが普遍性を持ってくる」
「私は秋と冬が好きだ。その季節になると、風景の骨格が感じられてくる。その孤独、冬の死んだようなひそやかさ」
「あるものとじっくりつき合っていると、しまいには自分がそのなかに生きているような気がしてくる」
「私は静かに瞑想しながら考える。人は皆孤独だと。人がいつも感じるのは哀しみだと」
「人はよく私の絵にはメランコリーが漂っているという。たしかに私には強い無常感があり、なにかをしっかり捕まえていたいという憧れがある」
「私はものごとに対してロマンティックな空想を抱いている。それを私は絵に描くのだが、リアリズムによってそこに到るのだ」

ワイエスの絵は、水彩といえ透明か不透明なのか、あるいはテンペラなのかアマチュアには判別が難しい。

画集で水彩Watercolor と明記されているものから、並べてみた(ほぼ制作年順)。
ワイエスの絵の特徴は幾つもあるが、その沈んだ色もその一つ。パレットの上で混色して暗い色を出している。画面の上で塗り重ねるのではなさそう。黒に近いが、黒ではない。緑でいえばサップグリーン。これを影として使う。影に様々な色が入っている。
オペラや赤系統の補色にインジゴ、セピア、ニュートラルチント、ペインズグレイなどと混ぜるのか。アマチュアには手に余る。



「ボブスレー The Bobsled」 (1937 Watercolor 以下w=水彩)ボブスレーは 運搬用の橇そり。
「林檎もぎ Picking Apples 」(1945 w)絵に赤がたまに入る。が黄色は殆どない。
「鉄道フェンス Rail Fence 」(1950 w)
「Approaching the Island 」(1951 w)
「NCワイエス果樹園 N.C Wyeth Orchard 」(1961 w )
「本を読む人、モンヘガンMan Reading ,Monhegan」( 1974 )たしかに右下の窓に本を読む人がいるが、主題ではなかろう。
「雪の中の枝 Branch In the Snow 」(1980 w)殆ど墨絵の世界。
「ワイリーの鎌 Wylie's Scythe 」(1986 w)
「節のある樫 Burled Oak 」(date unknown w)
「独身者の学習 The Bachelor Study 」(Date unknown w)洗濯の練習か。
「ホフマンの納屋 Hoffman's Barn 」(Date unknown w)水彩もモノトーンに味がある。
「A.ワイエスの肖像 Portrait of Andrew Wyeth 」(Jamie Wyeth, 1969 oil)アンドリュー52歳、描いた息子ジェイミーが23歳の時のもの。



「Watercolor(= w)」 、「テンペラ」とことわりがないのは画集にメディアが明記されていないもの。
「Field Hand (recto) 」( 1985 w )右ページ
「11月初めに November First 」( 1950 w)モノトーン。これも墨絵のよう。
「The Hatton House 」( 1967 w)
「ロブスター漁船 The Lobsterman 」水彩だろうが透明かどうか不明。
「Turkey Cove Ledge 」
「冬の農場光景 Winter Farm Scene 」(Date unknown w)早描きスケッチ。エスキースか。
「Lovers 」(1981 テンペラ)肌の上に映る窓の影。
「クリスティーナの世界 Christina's World 」(1948 テンペラ )代表作のひとつ。
「家の中の小鳥Bird in the house 」窓の光がフットライト。小鳥と下の木枠の赤が主役。
「遠雷 Distant Thunder 」テンペラのようだが。雷鳴音が描かれている。
「マガの娘Maga's Daughter」( 1966 )「マガの娘」とは、A.ワイエスの妻ベッツィのことである。テンペラか。ウブ毛まで描き込まれ細密画のよう。リアリティ完璧。
「自画像 Self-Portrait 」画材は不明。曖昧、正確混在した描き方。
「春の花 Spring Beauty 」(1943)テンペラではなさそうだが、不透明水彩か。木の根でアイキャッチ、枯葉のなかに花一輪とは、すごい。

日本の画家では熊谷守一(1880-1977 97歳)が、A・ワイエスと同じように静かな精神世界を描いた画家として引き合いに出される。
ともに高齢になっても絵を描いたところも共通している。だが二人は違いも大きい。ワイエスが多作なのに対して、熊谷守一は 極端に寡作であり。また、ワイエスが徹底したリアリズムを追求したが、熊谷は対象を省略、単純化し抽象画に近い画風であるのが特徴である。
何より晩年のワイエスは暗い方向に傾斜していくようにみえるが、熊谷守一の方は高齢化してから明るくなっているのはなぜだろう。

次回は、ジャミーワイエス(第3世代)の水彩画。


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