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阿川弘之の随筆 [本]

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阿川弘之氏は1920 年12月広島市生まれ。東京帝大卒。1942(昭和17)年海軍予備学生。退役後 志賀直哉に師事、小説を書く。「春の城」「雲の墓標」のほか、大日本帝国海軍提督を描いた3部作「山本五十六」「米内光政」「井上成美」などが小説の代表作。現在、93歳。

ここまで書いて、どうしていつも自分は既に誰でも知っている高名な人について、あらためて詳細を書くのかーと思う。人に伝えようとするのではなく自分が確認しているだけだなと気付く。読み手のことを考えていない証左だなと気付く。書こうとすることに関係あることだけ書けば良い。今回で言えば、「現在、93歳」か。

自分は、阿川弘之氏の小説はあまり読んでいない。「米内」と「井上」くらいか。自分のリタイア後に、もっぱら随筆を読んだ。かと云って小説でなく随筆ならそれを語る資格があると言える程良い読み手ではない。

随筆からは、第三の新人たちとの交友、陸軍嫌いの海軍贔屓、麻雀好き、汽船、鉄道マニア、朝日嫌いの産経好き、昭和天皇好き、茂吉短歌好きなどを知って、自分ひとりよがりだが、人柄は頑固一徹爺のイメージが脳裡に定着している。文章も好きだが、ユーモアとウィットがなんとも楽しい。

しかし最近は、作家でエッセイストの長女阿川佐和子の方が、インタビューアーなどで頻りに話題になる。少しさみしい。

随筆は、文藝春秋に連載したものを纏めた「葭の髄から」 (文藝春秋 2000年 文庫)から主に愉しんだ。
「人やさき犬やさき 続 葭の髄から 」(文藝春秋 2004年 文庫)、「エレガントな象 続々 葭の髄から」 (文藝春秋 2007年 文庫)とつづく。
「天皇さんの涙 葭の髄から・完」 (文藝春秋 2011年 文庫 2013年) をもって90歳の高齢を理由に擱筆を宣言。愛読者としては、楽しみが一つ消えてしまい残念。

ほかに「故園黄葉 」(講談社 1999 文庫)、「食味風々録 」(新潮社 2001 文庫)、「2010桃の宿」 、「講談社 2001 鮎の宿 」、「講談社1992 大ぼけ小ぼけ」 「1999七十の手習ひ 」「2010論語知らずの論語読み」などもわが読書記録にある。

先日も図書館で氏の面白い本を見つけた。
「国を思うて何が悪い 一自由主義者の憤慨録 」(阿川弘之 1987 光文社 )である。
この本は1997 年文庫本 になり、2008年になってまた、ちくま文庫本新装版 が出る。
どうやらこの本は、人気があると見えて版を重ねている。
最近の内外の風潮を考えるとわかるような気もするが、アブナイ気もする。作家の意図に反し、説を曲解して利用しかねない不逞のやからがわんさといる。しかし、今回本の内容や著者の主張を論じるつもりはない。

随筆は著者の言いたいことに興味が向くのでなく、著者への関心と今自分の興味のあることに強く惹かれて読むという特性がある。自分のフィーリングにあった随筆ばかり読むのは、その特性による。よって自分の殻も破れず、視野も狭まるが、とくにこの年では致し方ない。

今回も憤慨のひとつ「文士に多い安普請」の中の次の文章に同感、喝采を送った。10年も水彩画のおけいこに励み、今頃になって本当にそうだなと思っていたからに違い無い。
「大体、文士や絵描きなんかある意味では、一介の職人に過ぎないんでしてね。アランの言葉に「まず指物師にになれ、それからできれば芸術家になれ」というのがありますけど、指物のちゃんと出来ないのに限って、芸術家ぶったり、大上段に構えた反対論をぶったりするんです。」

アラン(Alain)はペンネーム。エミール=オーギュスト・シャルティエ(1868- 1951 83歳で没。)は、フランス ノルマンディー・モルターニュ出身の哲学者、評論家、モラリスト。
ペンネームのアランは、フランス中世の詩人、作家であるアラン・シャルティエに由来する。
名高いが、哲学者や評論家としても活動し、アンリ・ベルクソンやポール・ヴァレリーと並んで合理的ヒューマニズムの思想は20世紀前半フランスの思想に大きな影響を与えたとされる。
もちろん、日本人にも大きな影響を与え、幸福論など彼の言葉を名言とあがめ、箴言の如く自説を補強するために引用する人は沢山いる。阿川氏のこのアラン引用もその一例。それで自説を確認している自分がいるという具合。

ほかに最近読んだ阿川氏の随筆。「断然欠席」( 1992 講談社文庫)日経掲載の私の履歴書が収録されていて再読(再再読?)した。

「春風落月 」(2002 講談社)著者の80歳前後の随筆。元気だ。

さて、ペンを置いた阿川氏が、最近、単行本未収録の短編小説や随想、座談会などを収めた「鮨そのほか(2012 新潮社)を出したことを知る。「92歳で本が出るのは不思議だが、ありがたい」と云ったとか。
図書館で検索すると、「内容は「花がたみ」「鮨」「贋々作「猫」」、そして短篇の名品…。日本語の富と、作家の技倆の粋を尽くした芳醇絶佳たる作品群を収録。吉行淳之介・遠藤周作を偲ぶ座談を付す」とあったので早速借り入れ申し込んで読んだ。

「この一冊はおそらく、七十年近い我が文筆生活を締め括る最後の一冊となるだらう。」と、「病院と称する老人介護施設に入居している」本人があとがきで書いている。確かに高齢で筆を置いたあとでも、なお本が発行され多くの読者に喜ばれる作家はそうはいまい。
志賀直哉の生活と芸術、暗夜行路の解説、第三の新人のことなど、名文をおおいに愉しませてもらった。健康と長寿を祈るばかりである。
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