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安野光雅「原風景のなかへ 」を読む [本]


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この本は、2010.3〜2013.2の間に共同通信社から配信された水彩画家、安野光雅氏の連載記事の再録である。 (山川出版社 2013)
最初の1ページが題名と地図、次の2ページが見開きで「原風景」の水彩画、次の2ページに文章があり最後の1ページに氏のカットだけという構成で34の原風景が掲載されている。なんと豊かで贅沢な本か。もちろん装丁・画は安野氏。手もとにおいてときどき読みたい本。

絵だけ見ても楽しいし、文は風景にまつわる、あるいは関係のない著者の考えたことなどでそれも読んで楽しい。著者は高名な水彩画家だが文をよくし、著書も多く文章力の評価が高い。
ページを開けば縁ある土地や行ったことのある場所の思い出に浸り、また時折出てくる絵の話に魅かれるといった具合。
自分の場合でいえば、次のような文。
・「消さない決まり」はその気になってやってみる値打ちがある。お勧めしたい。 (室津漁港)ー絵の描き方の話である。

・「わたしたちは、たとえばフランスの画家アンリ・ルソーの仕事や子どもの作品の持つ初々しさを、ナイーブ派という言葉で整理し、評価の「圏外」に置こうとしているきらいがある。いや、そうしなければ、「圏外」の絵の前では立ちすくむほかなかったのだ」(田園に咲いた花 大分 由布院)ー絵の第一人者の言だからこそ、心に響く。加えるに大分は、昔赴任して2年間働いた懐かしい地。初冬の由布岳の絵は心に沁みて迫るが、実際の山はもっと尖っていた。

・「雨は真珠か/夜明けの霧か」と歌う一節が、今も浮かんでくる。(雨は真珠 三浦半島・三崎港)ーしばらく島の通り矢のはなを望める辺りに住んでいたことがある北原白秋 の叙情歌「城ケ島の雨」 の話。ここはわが父祖の地でもあり、この曲を聴くと自分も島の常光寺の父母の墓などを思うのだ。

さて、氏は1926年生まれだから、現在米寿88歳。この連載は84歳から87歳の間に書かれたことになる。
絵を一見して、あ、絵が変わったと思った。もともと氏の絵は線描、淡彩で、どちらかといえばおだやかな落ち着いた雰囲気という先入観がある。
好きな作家で、その静かな絵は自分が水彩をやって見たいと思った動機のひとつにもなったように思う。
それが今回の「原風景」の絵の多くは鉛筆の線が弱くなり、むしろ消え、色彩の面が多くなっている。しかも強烈な色彩さえある。つまり輪郭線は鉛筆でなく面で表されている。受ける印象は総じて強い。
阿蘇根子岳、犬吠埼、九十九島、明日香村などとくにそれが目立つ。
もっとも若い時から色んな描き方をしているから、画風が変わったというわけではないだろう。自分の気のせいかもしれないとも思う。
最近の「絵のある自伝」(文藝春秋 2011)、「会えてよかった」(朝日新聞出版 2013)などの絵は、挿絵だから比較にならないが、絵が激しいように思う。
普通、高齢になると淡白な絵になるような気がするのだが、この人は若い時の方が静かで淡白な絵で、それが人気が出たようなところがある。すぐれた画家は、いつまでも常に変わるのだろうか。

画家があとがきで「その画の骨組み(デッサン)がしっかりしてさえいれば、そこにどんな木が生えていようと川が流れていようと、画に狂いがなくなる」と言っているのが、なにやら意味ありげである。
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