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渡辺京二「逝きし世の面影」を読む [本]

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渡辺京二著「逝きし世の面影」(平凡社ライブラリー2005)。
この本をなぜ図書館の検索ネットで探して借りたのか、きっかけを今どうしても思い出せない。何かブログでも見たの本を読んだのでその関連だったか。認知症はこうして始まるというから心配である。

「逝きし世の面影」は当初1998年に発行された。知らなかったが、 いっとき話題になり、おおいに売れたという。
なるほど読んで見るとさもありなんと思う。
表題からして「逝きし世」といい、「面影」といい、抒情的で人の心を捉える。当初案の「われら失いし世界」、「失われた近代」ではこうはいくまい。
外国人の見た江戸時代の日本の印象が数多く引用されているが、好印象の話が読む者の耳に心地よい。多分多くの読者を惹きつけたのは、これであろう。むろん外国人の悪印象も綴られてはいるが、読む者の脳を素通りする。嫌なものは見たくないのだ。
日本もかつてはこんなに良い国だったのだ。それに引きかえ今のひどさよ、誰がこんな国のかたちにしたのか。石原慎太郎がこの本を評価した(解説 平川祐弘)というのも理解できるというもの。

自分が読んだのは、文庫版だが580ページもある。しかもページに びっしり文字が詰まっている。少しずつ読み進めたといえ、最後まで読み切るのに時間を要した。ふつうなら途中で投げ出すことうけあいの長さである。
著者は熊本在住の塾講師ということだが、この長い文章を読ませるだけの筆力を持っている作家と見た。

さて、自分は著者の言わんとすることは概ね共感しつつ読み終えた。特に文化や文明を外国人の眼を通して見る手法は、批判者もいるが評価する方に与する。気づいても、効果を疑い実行しない方法だろう。著者は、異国人が初めて日本の地を踏んで眼にした驚きの中に、日本の特異性を見つけ出そうとする。徹底してかつ、執拗に。成功したのは、結果的に時代そのものも一緒に描き出したからに違いない。
描き出された世は戻らない。逝ってしまったのだ。今の世にそのかけらでも残っていないかと、求めて見るのは詮無いことだ。阪神淡路や東日本大震災のときの日本人の態度の中に見つけ出すことが出来るかもしれないが、そんなことを考え、ノスタルジアに浸ろうとするのは自分の世代までで、若い人には遠い国のような話でしかないだろう。

むしろ、外人の見た日本人の悪い印象の方は、読者も読み捨て、著者もその意義を深く追求していないけれど、しぶとく今の世に生き残っているのではないか。彼らの指摘には的外れなこともあるが、真っ当なものもある。これを吟味した方が、これからの日本のために大事なことのような気がする。
附和雷同、長い物には巻かれろ、忠君愛国、外国崇拝といったどこの国でもあることだけでなく、無関心や人のせいにする無責任体質、事なかれ主義など。
尤もこちらの方は、あげつらって解明した本を書いても売れそうには無さそうだが。
しかし、昨今の情勢を見るに、こりゃいつか来た道だぞ、こういうのは古くからある特異性のなせるわざだ、と思わざるを得ないようなことが多過ぎるのだ。

なお、本題からは逸れるが、自分は外国人が描いた本書の挿絵も愉しんだ。仏人画家フェリクス・レガメ(1844-1907)、英人画家チャールズ・ワーグマン(1832-91)らの絵である。
英公使オールコックの随員記者として来日した画家のワーグマンはポンチ絵でも高名だが、五姓田義松、高橋由一が入門したことで知られる。小林清親も接触があったと伝えられる。
レガメは仏実業家ギメとともに、宗教調査の記録係として1876年(M9)来日した仏人画家である。
たまたまだが、レガメが描いた河鍋暁斎の絵(肖像画)を「芸術新潮」最近号で見つけた。
「逝きし世の面影」には、この河鍋暁斎が描いたワーグマンの絵が挿絵に載っている。明治初期のかれらの洋画、日本画(浮世絵)を通した交流が偲ばれる。
挿絵はモノクロなのが残念。「逝きし世の面影」の表紙絵(街を行く「ムスメ」、エドウィン・アーノルド 、英詩人で1889年来日)は彩色されたものだが、格段に訴える力が強い。
海外の人々は、これらの絵から日本の国の特異性を目にしてみな驚き、この国に興味を持ったに違いない。かたや、彼らの絵から日本人画家は多くのものを学んだであろう。

著者あとがきに紹介されている「江戸という幻景」(弦書房2004刊)も同じようなことが書かれていそうだが、ついでに読んでみようかという気になっている。

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