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望郷のバラード [音楽]


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もう一年以上前になるが、近所の方に誘われて天満敦子ヴァイオリンリサイタルに行った。連れて行ってくださったのは、難民を救う会に勤めている方の母上。難民の会のチャリティ演奏会だったように覚えている。母上とお嬢さん、家人と四人で夏の一夕を愉しんだ。

自分は音楽について皆目分からない。演奏された曲目では天満敦子の代名詞のようになっている「望郷のバラード」だけ覚えている。帰ってからもこの曲がずっと気になっていたので、ユーチューブで時折り聴いたりしていた。おもいたって、先日図書館で検索してCDと天満 敦子/著「わが心の歌 望郷のバラード」(文芸春秋 )を借りてきた。

バラードとは、語り物的な歌のことで、またそのような内容・感情を器楽曲にしたもの、譚詩曲ともいう、とか。シャンソンや歌謡曲のジャンルにもあることなどを初めて知った。美空ひばりの「川の流れのように」がバラードと聞くと、びっくりする。

天満 敦子著「わが心の歌 望郷のバラード」は、彼女の自伝的なものだが、その生い立ち、半生と「望郷のバラード」(ポルムベスク作曲、原題BALADA)との出会いが記されている。ストラディヴァリウスとの出会い、ヴァイオリン修業など音楽のことだけでなく井上光晴、丸山眞男らとの交流も面白く読ませる。

天満敦子は、1955年東京生まれ。芸大大学院卒。東京芸大在学中に日本音楽コンクール第1位、ロン・ティボー国際コンクール特別銀賞等を受賞して注目を浴びる。海野義雄、故レオニード・コーガン、ヘルマン・クレッ バースらに師事。
1992年に文化使節としてルーマニアを訪問、演奏し文化大臣から、ロシアの誇る史上最高のバイオリニスト、ダヴィット・オイストラフ(1908-74)に並ぶヴァイオリニストとして絶賛された。
翌1993年にルーマニア出身の夭折した作曲家チプリアン・ポルムベスク (Ciprian Porumbescu)の遺作「望郷のバラード」の楽譜を托される。
哀愁を帯びた美しい旋律に魅せられ日本人として初演し、それが評判となり、1993年発売のアルバム「望郷のバラード」はクラシックとしては異例の5万枚を超えて大ブレークした。

使用するヴァイオリンはアントニオ・ストラディヴァリウス晩年の名作。弓は伝説の巨匠ウージェーヌ・イザイ遺愛の名弓。(天満敦子HP http://www.officetemma.co.jp より)


東欧革命前夜のルーマニアを舞台に、この曲をめぐる謎とヴァイオリニストの恋愛を描いた高樹のぶ子の小説「百年の預言」(2000 朝日新聞社)のヒロインは、天満敦子がモデルといわれている。
著者高樹のぶ子は1946年山口県生まれ。
昔福岡に1年間赴任した時、薬院の近く浄水通りあったマンションに住んだ。高樹のぶ子は、そのマンションの住人だと聞いたが見かけたこともないので、本当かどうか定かでない。福岡勤務は1988年だから「光抱く友よ」(1984年)で女史が芥川賞を受賞して間もなくという時期になる。わが読書記録に「波光きらめく果て」(文藝春秋 1985)があるが、全く内容に覚えがない。受賞作は読んでいない。
周知のごとく、いまや文学賞の審査委員をつとめるなど文壇において確固たる位置にあるが、当時は若い美人女流作家の鮮烈なデビューであったように記憶している。

「百年の預言」を通読したが、ルーマニアという国に詳しく、クラシック音楽に造詣が深く、恋愛経験豊富でさらに東欧革命史にもっと通じていれば、ポルムベスクの楽譜をめぐる謎解きを含めてこの小説をより楽しめたのだろうにというのが読後感想。

天満敦子は、前記の著書のなかで「モデルは私だが、行為は高樹さん」と当時リサイタルの都度釈明したというほど、愛の描写がリアルで強烈である。天満満子らしきヒロイン走馬充子の恋愛ストーリー展開は女史の独壇場といった感がする。

小説の中でバイオリストの母親が、「望郷のバラード」を貶してルーマニアの「湯の町エレジー」と言う。せめて「荒城の月」くらいにして欲しいが、クラシック音楽からすればそういうものかどうか知らない。天満満子は「わが心の歌」の中で「シクラメンのかほり」だったか、「北の宿から」だったかを請われて弾くことがあると書いていた。自由な心のアーチストなのであろう。

それにしても、音楽の分からぬ自分がこの「望郷のバラード」やスメタナの交響詩「モルダウ わが祖国」、カザルスのカタルーニャ民謡「鳥の歌」など、どちらかといえば哀切を帯びたような暗い曲に惹かれるのは何故なのか、と時折りしみじみと訝うことがある。

以下は例により、余談で備忘。
ルーマニアは人口19百万、カタチが上掲の小説では「チョウチョウウオ」と表現されているように丸く膨らんでいる。東ヨーロッパに位置する共和制国家。南西にセルビア、北西にハンガリー、北にウクライナ、北東にモルドバ、南にブルガリアと国境を接し、東は黒海に面している。首都はブカレスト。

1989年、ニコラエ・チャウシェスクの独裁政権がルーマニア革命によって打倒され、民主化された。「百年の預言」の時代背景である。欧州連合(EU) への加盟は2007年、28か国中ブルガリアと共に一番最後。最後になった理由は知らない。

お隣りのハンガリーには1998年仕事で行ったが、ルーマニアには行ったことがない。似たような雰囲気なのだろうか。
訪ねていれば小説をもっと楽しめたのだろうが。

自分はルーマニアというと、思い浮かべるのは好きなマチスの絵「ルーマニアのブラウスThe Romanian Blouse」(1940 油彩)である。この稿とは全く接点がない。

「百年の預言」では、高樹のぶ子は「…のはず。」と切る文章がときに出てきて、なぜか気になった。大江健三郎も使うが、自分だけだろうが、どうもしっくりこない。

「わが心の歌」に出てくる曲のうち、いくつかのものをメモしたので、あらためて聴くことにしよう。すでにiPodに入れてある曲もあるが。ちょうどアマゾンの音楽配信が始まったのでタイミングよし。

ベートーベン 「ヴァイオリンソナタ 第3 、第5 スプリング 、第7 アレクサンダー、第9番クロイツェルソナタ」
ショスタコーヴィチ 「ヴァイオリン協奏曲コンチェルト1番」
バルトーク 「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ」
テレマン 「12の幻想曲 変ホ長調 第7番」
バッハ 「無伴奏ヴァイオリンソナタ パルティータ 第2番ニ短調 終曲シャコンヌ」
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