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平成二十八年 丙申歳旦三つ物 [詩歌]


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連句は長句(5・7・5)短句(7・7)を交互に前の句に付けて繰り返し詠む。
歌仙、半歌仙は36、18句、ときに百韻などとてつもなく長いものまである。独吟もあるが両吟、三吟それ以上の複数者が集まり紡ぐようにつないで遊ぶのが楽しいとされる。ときに酒など嗜みつつ。いわゆる座の文芸のひとつである。
室町時代の連歌をみなもととする俳諧とは基本的にはこの遊びである。
第一句を発句、次が脇、三句目を第三といい、最後が挙げ句である。発句が独立して俳句になったことは周知のとおり。表、裏、折立、折端の句や花の座、月の座の位置など厄介なルール(式目)があるが、人はときにそれにこだわらず愉しむという。
明治時代例えば漱石、寅彦などもおおいに楽しんだ。大岡 信、丸谷才一、岡野弘之らの歌仙集も何冊かある。ネットを利用したりして、現代にも少なからず愛好者がいるようだが、もとより江戸時代の隆盛から見れば淋しい。子規が俳句復興を急ぐあまりに、連俳は文学に非ずと評価したことも、衰微の一因といわれるが、今では子規の誤まりとする説が一般的になっている。

ところで昔の人は正月(歳旦)や何かしらめでたい時(吉事、慶事)などに、連句の冒頭部分の発句、脇、第三の3句までのものをつくるならわしがあると知った。「三つ物」と称する。独吟の変形。真似て何度かつくってみた。

最初に作ったのは、2005年の正月。写真を入れてパワーポイントも作って遊んだ。家人の五十肩の平癒を寿ぐ。この年に次男が奥穂高神社で結婚式を挙げた。

平成十七年乙酉歳旦三つ物
発句 五十肩消えて弾き初めヴァイオリン
脇 いよよ華やぐ老いの春なり
第三 挙式せん山笑う頃穂高にて

年賀状に添えたら、連句を教えてくれた職場の先輩からメールが来た。返歌だとして次の「松の内三つ物」が書いてあったのが懐かしい思い出になっている。

三つ物の何やら嬉し年賀状
心新たに立ちし元朝
還暦を過ぎて始めしことありて

また、初孫誕生で2013年に。73歳の爺は吉左右に舞い上がった。博多の「祝いめでた」は、鯨とりのはやし歌という説があると聞いたことがある。脇の句は、その歌い出しをそのまま頂戴して。
孫誕生三つ物

発句 初孫やさても見事な初緑
脇 祝いめでたの若松様よ
第三 背美鯨大網かはし潮吹きて


さて、昨年、2015年の暮れも久し振りで三つ物をつくった。
平成二十八年 の丙申歳旦三つ物

金婚や持ち重りする薔薇の花
冷房きかせ聴くクインテット
水彩画かくもながきに愉しみて

昨年なんと金婚式だった。最近読んだ丸谷才一の小説の題名「持ち重りする薔薇の花」をそのままパクって発句にした。もじりどころではない。
が、できた句は金婚は迎えて嬉しく、めでたいと感謝する一方、加齢とともに重くなってくるだろうという感慨が、自分にはぴったりである。

そこで「脇」は、クーラーをきつくして五重奏(クインテット)を聴く、とした。前句の「持ち重りする薔薇」は四重奏団(カルテット)の話だが、金婚なのでクインテットにした。
薔薇は夏の季語なので脇も夏の句。冷房をクーラーと読んで貰えれば、「か行」のならぶ句になった。

第三は前の句から大きく転換しなければならず、かつ発句(前々句)と関連することはタブー。連句はひたすら前へ進み後戻りはしないのである。
出来ればめでたいことを詠いたい。クーラーから水、水彩画と付けた。水彩をはじめて十一年、まだ飽きず懲りずに下手をやっているコトを詠んだ。第三は季語が入らない雑(ぞう)の句で良いとされる。

このように説明を要し、説明を受けてもたぶん読む方は、腑に落ちないだろうと思う。まして説明がなければ、ちんぷんかんぷん。下手な証左でもある。
読み手がその時思ったことを、前の句に勝手に付けて詠う。つけることができる句は、幾つかの制約ありといえども無限に近いから、連句は基本的に曖昧な側面を持つ。
個々の句は極めて個人的なものだから読者には分かりにくいが、それにしても今回のはひどい。
つくづく連句はすぐれて個人的な感慨を詠い、人にも分かって貰うという普遍性も持たねばならぬ厄介な遊びであるという気がする。
関係のありそうななさそうな句を連ね、全体として一つの詩となるような、ならないようなあいまいなところが何とも言えずよろしい。曖昧短詩、曖昧文芸の良さであろうか。

さて、今年の年賀状に薔薇の花の水彩画にこれを添えてだした。上記の理由から無茶というもの。独りよがりもここに極わまれりである。
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