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バルテュスの水彩画 [絵]

バルテュス(Balthus 1908-2001 103 歳没)は、フランスの画家。本名はバルタザール・ミシェル・クロソウスキー・ド・ローラ (Balthasar Michel Klossowski de Rola) 。
バルテュスを「二十世紀最後の巨匠」と称えたのはパブロ・ピカソ(1881-1973 91歳没)である。ピカソはバルテュスのどんなところを評価したのだろうか。

ほとんど独学で絵を描いたバルテュスは、ルーヴル美術館で古典絵画の巨匠たちの作品を模写したが、なかでもピエロ・デラ・フランチェスカ(1412-1492 伊 )の影響が大きいとされる。イタリア初期ルネサンスの画家である。
たしかに古典を踏まえた、堅固な構成と繊細な描法による風景画などは、ピエロの代表作の「キリストの洗礼(油彩 1450年頃)」と通底するものがあるのかも知れないが、アマチュアにはよくわからぬ。
古典的とはおよそかけ離れた、幼い少女のあぶな絵とも言われるほどの絵をを多く描いたことで知られる。活動当初がシュールレアリスムや表現主義の全盛期であったため、作品の売り込みに苦労したバルテュスは意識的に衝撃的な題材を描き、話題集めに苦心したとされる。ピカソがそのスキャンダル性を評価したのではないのだろうが。

バルテュスは、1962年、パリでの日本美術展の選定のために訪れた東京で、当時20歳だった出田節子(いでたせつこ氏)と運命的な出会いをした。当時、妻がいて、フランス中部・シャシー村の城館で8年間も生活をともにしてモデルを務めた義理の姪フレデリック・ティゾン(Frédérique Tison)もいた。
しかし、バルテュスと節子は1963年に結婚した。34歳の年齢差である。
節子夫人も画家であり、2人の間には1973年に娘春美が誕生。(ハルミ・クロソフスカ=ド=ローラ氏、ジュエリーデザイナー)である。
103歳の長寿を全うしたバルテュスと節子との結婚生活は、39年に及ぶことになる。

2014年日本でバルテュス回顧展が開催され評判を呼んだが、残念ながら観る機会を逸した。

バルテュスの水彩は少ない。

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「Still Life (quince and pear) 静物(マルメロと梨) 」(1956 watercolor)この絵は見た記憶がある。
「Study for the siesta 午睡の習作 」(1958 watercolor)
「study-of-a-girl-with-a-window 窓辺の少女 」(制作年不詳 )technicも明記されていないが、水彩スケッチのように見えるので。主役の少女はまだ彩色されていない。

テンペラは、ワイエスの名作にも多くあるように水彩に近い。制作年代順に。

「Children, 子供 」(1937 テンペラ)
「The Moth, 蛾 」(1960テンペラ )大きな蝶のような蛾だ。節子と出会う前のテンペラ。
「The Turkish Room, トルコの部屋 」(1963 テンペラ )鏡を見ているのは節子だが、このポーズはバルテュスは好んで描いた。油彩の「黄金の年(1945)」も同じ。猫もいたりするが、この2枚にはいない。
「日本の少女 」(1963 鉛筆 )

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「The cardgame, カードゲーム 」(1973 テンペラ)
「Katia reading 読書するカティア」( 1974 テンペラ )Dimensions(大きさ)180 x 210 cm。
「Painter and his Model, 画家とモデル 」(1981 テンペラ )Dimensions(絵の大きさ)226.5 x 230.5 cm。バルテュスのテンペラはサイズがかなり大きい。

油彩の中から良く知られた絵を3枚。
「猫の王 」(1935 油彩 )異様に長い足のバルテュス、それに頭をこすりつけ、まとわりつく猫。題名は誤解にもとづいている。王は飼い主でなく猫なのに。
「The Golden Years 黄金の年 」(1945 油彩 )代表作のひとつ。暖炉に薪をくべる男の子は何を現すのか。「素晴らしい日々」という方が良い題名だろう。
「The Mediterranean Cat 地中海の猫 」(1949 油彩)127×185cm 。店主から請われてレストランに飾るために描いたとされる。ふざけた絵にしてはどこか憎めぬ。猫より左のボートを漕ぐ少女とロブスターが効いているのか。

「Mitsou, ミツ」(1919 インク)バルテュス 11歳の時の40枚の猫の絵。8歳から描き始めたというから幼年時代の作品である。序文リルケという。


ジャポニスムにも触れねばなるまい 。バルテュスは、最初日本人形の美しさに惹かれたという。節子に惹かれたのはそれで分かるが、和服や日本の何に魅力を感じたのだろうか。むろん美的なものではあろうが。やはり「逝きし世の面影」だったのであろうという気がする。

バルテュスにとって、少女とともに、重要なモティーフであった「猫」。
バルテュスの描く猫は可愛いものは少ない。むしろ、小にくらしいのが多い。江戸時代の浮世絵にある猫だ。確かに、猫は可愛い仕草だけではないところも魅力ではあるが。絵の中で効果を高めるのは猫を見る側に大半の原因がある。

 妻節子は「猫はバルテュスにとって本人そのものだった」という。バルテュスは自分の前世は猫だと思っていたふしがあるとさえ言う。筋金入り。
自分はヘルマン・ヘッセの猫好きを思い出した。

ピカソやダリでも同じだが、常識的に変わった絵を描く画家だという先入観があるので、若い時のまっとう(!?)な絵を観ると、ひどく魅力的に見えることがある。
クリムトの正方形の風景画などはその典型だが、バルテュスの1940-50年代の風景画も実に魅惑的である。
そのうちの数枚。

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「Landscape in Morvan, モルヴァンの風景 」(1955 油彩)水彩のように見えるが、たぶん油彩であろう。
「Great landscape with trees (The triangular field), 三角形のフィールド」( 1955 油彩)
「Big Landscape with Cow, 牛のいる景観 」(1958 油彩)
「The bouquet of roses on the window, 窓辺のバラの花束 」(1958 油彩)
「The Cherry Tree, 桜の木 」(1940 油彩)

例により、関心ある晩年の作品。
「The Cat in the Mirror, 鏡の中の猫」(1988 油彩)
「The Cat in the Mirror, 鏡の中の猫」(1990 油彩)最晩年82歳の作品。
「マンドリンと少女 」(未完 油彩) 最後まで「少女」だ。

バルテュスの生年1908(明治41)年は、日露戦争が勃発した明治40年の翌年になる。母の生年がこの年なのでスラスラ年号が出せる。母も101歳の長寿だったが、巨匠は男性だから103歳は驚異的である。
1963年、54歳のバルテュスと結婚した20歳の節子氏は、1942年東京生まれ、自分より二つ下になる。1943年までは東京府東京市だったから、正確に言えば東京市生まれ。

自分の家人も20歳で結婚した。1965年。つれあいとの歳の差5年。

スペインのチェロ奏者パブロ・カザルスは、80歳にして20歳のマルタと結婚し10年間「守護天使」と言い、可愛がったという。歳の差60。さらなる強者もいると思うと、しみじみして言葉を失いため息が出るばかりである。人さまざまと分かっているつもりでも。

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