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カンタン・ラ・トゥールのパステル画 [絵]

モーリス・カンタン・ド・ラ・トゥール(Maurice Quentin de La Tour,1704 - 1788)は、フランスのロココ期(18世紀)の画家。パステルを使った肖像画家として有名で、国王はじめ、宮廷人、知識人などを描いた。「パステル画家」とさえ呼ばれる。

代表作に「ポンパドゥール侯爵夫人の肖像」がある。
ポンパドゥール夫人(Madame de Pompadour)ことポンパドゥール侯爵夫人ジャンヌ=アントワネット・ポワソン(Jeanne-Antoinette Poisson, marquise de Pompadour, 1721 - 1764)は、フランス18世紀のルイ15世の公妾で、その立場を利用してフランスの政治に強く干渉し、七年戦争ではオーストリア・ロシアの2人の女帝と組んでプロイセンと対抗したという。
公妾(こうしょう)は、側室制度が許されなかったキリスト教ヨーロッパ諸国の宮廷で主に近世に採用された制度。'Maîtresse royale'(仏、英:Royal mistress、王の愛人)から訳された歴史用語とか。それにしてももう少し良い訳語は無かったのだろうか。

フランスの爵位は13世紀、国王フィリップ3世が貴族身分を制定したのが始まりで18世紀に王族の大公を筆頭に公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、騎士、エキュイエ(平貴族)までの階梯が確立した。フランス革命で爵位制度は一度廃絶されたが1814年の王政復古により、ナポレオン帝政下の帝政貴族と王朝貴族が併存する形で爵位制度が復活するものの貴族の特権は伴わず爵位は純然たる名誉称号と化した。第三共和政以後は私的に用いる以外その効果を失った。(ウキペディアより)
つまり、フランスでは、爵位は家につかず人についたということらしい。

image-20160424161210.png

そのカンタン・ド・ラ・トゥールのパステル画である。
「Jeanne Antoinette Poisson, marquise de Pompadour ジャンヌ・アントワネット・ポワソン、ポンパドゥール侯爵夫人」(1755 パステル )177×130cm ルーブル美術館。

テクニックはPastel on seven sheets of Blue paper mounted on canvas とあるので、直訳すれば、「カンヴァスに貼った七枚のブルーペーパーに描いたパステル」となるが、
パステルで大作にするために紙を七枚貼り合わせたのだろうか。たしかにパステル画としては大きい。七枚をどう継ぎ合わせたのか、油彩に対抗せんとする苦労がしのばれる。

画には優雅な佇まいのポンパドゥール侯爵夫人とともに、学問や高い教養を象徴する地球儀や書物が描かれている。夫人が手にする楽譜や画面左側(夫人の座る椅子の奥)に配される楽器は音楽を、画面右側の豪華な机の上に描かれる地球儀やぶ厚い書物などは、学問、高い教養をもった女性であることを表している。スケッチブックらしきものもあり、デッサンなどは芸術への造詣の深さなどを意味しているという。

「Madame De Pompadour ポンパドゥール夫人」(1752 パステル)32×24cm。
本制作のための習作だろうか。それにしては、描かれた時期が本制作の3年前というのがよく分からないが。夫人への売り込み用か、などと考えるのは、なんとかの勘繰り。

ポンパドゥール侯爵夫人以外の肖像画もたくさんあるが、好きなのを一枚。
「Portrait of Marie Fel 」(1757 パステル )32×24cm。モデルはバロック後期フランスの名ソプラノ歌手:マリー・フェル(Marie Fel, 1713-1794)であろう。

「Studies Of Men's Hands 男の手の習作 」(date unknown パステル)52 ×35cm 。アマチュア(自分のこと)には、参考になりそうなので。
image.jpeg

権勢を誇った美女だから、多くの画家が彼女の肖像画を描いたであろう。パステル画と比較すべく似たものをさがしたら、同じフランスの画家、フランソワ・ブーシェ(François Boucher, 1703- 1770)の油彩があった。ラ・トゥールのパステルの1年後のもの。

「ポンパドゥール夫人」(1756 油彩)212×164cm、キャンヴァスに油彩、こちらには犬がいる 、地球儀などがない。あとはほぼ同じ。カンタン・ラ・トゥールのパステル画より一回り大きい。

カンタン・ラ・トゥールは、肖像画において人物の性格などまで表現したと評されている。自画像も何枚か描いているが、それを見るとどんな性格の画家だったのだろうと想像してしまう。
「Self-portrait With Frill フリルを着た自画像 」(1751年頃 パステル)64×53cm 。ピカルディー美術館(アミアン)蔵。
この絵は、繊細な明暗対比や色彩の微妙な変化、基本的には軽快でありながらも適度に濃密さを感じさせる質感表現などは画家の超絶技巧によって示されたパステルの魅力そのものだとされる絵だ。今でいうソフトパステルであろうが、たしかに油彩と見紛う完成度である。

なお、これと似た自画像を見つけた。
「ジャボット(レースの飾り襞の付いた衣服)を着た自画像」(制作年不詳 パステル)
こちらの青いjabotの色がより鮮やか。ビロードのような布の質感が凄い。


さて、画家にもう一人のラ・トゥールがいる。
日本では、どこかフェルメールに似た雰囲気もあってか、こちらの方が人気があり上記のパステル画家より知っている人が多いに違いない。
ジョルジュ・ド・ラ・トゥール(Georges de La Tour 1593 - 1652)である。

フランス北東部ロレーヌ地域圏で17世紀前半(パステルのカンタン・ラ・トゥールは18世紀後半)に活動し、キアロスクーロを用いた「夜の画家」と呼ばれる。彼にはパステル、水彩もない。また珍しいことに自画像がない。肖像画も見あたらない。
キアロスクーロは明暗のコントラスト(対比)を指す言葉。それを用いた技法が「明暗法」「陰影法」である。

代表作のひとつが「Mary Magdalene With A Night Light 悔悛するマグダラのマリア(聖なる火を前にしたマグダラのマリア)」 (1630-35 油彩)128×94cm ルーヴル美術館。

StyleがTenebrism とある。テネブリズムは、光と闇の強烈なコントラストを用いた絵画のスタイル。 語源はイタリア語のテネブローソ tenebroso (闇) で、dramatic illumination (劇的照明)とも呼ばれる。 明暗法のより高まった様式で、暗闇から人物が浮かび上がったような画面を作る。カラヴァッジョ、ティツィアーノ、レンブラントなどがこのスタイル。17世紀スペイン画家に多いとされる。

有名な油彩画をもう一枚。こちらは同じ画家ながらキアロスクーロでなく、上掲の「夜の絵」対応して「昼の絵」と呼ばれる。
「The Card-Sharp with the Ace of Diamonds いかさま師(ダイヤのエースを持った)」 (1635-38 油彩 )97.8x 156.2 cm ルーヴル美術館。

なお、ジョルジュ・ラ・トゥールは同じ絵のヴァリエーションが多い。たとえば、マグダラのマリアも複数枚ある。
「いかさま師」には、いかさま師が後ろ手に隠すカードが、ダイヤでなくクラブのエースもあることでも知られる。それ以外は全く同じだから見分けがつかない。

「ラ・トゥール」はフランス語の「塔」で、ワインの銘柄「シャトー・ラトゥール (Chateau Latour)」(ボルドー)や高級レストラン「ラ・トゥール・ダルジャン (La Tour d'Argent)」(パリ・銀の塔)の名で広く知られる。
むしろ、二人の画家ラ・トゥールの方が、ワインやレストランより一般的でないと思われる。
しかも二人の間には1世紀余の時間の隔たりもあり、画風も全く異なる。
名前が同じだけということで取り上げ、比べるのはいかにもアマチュアらしいところではあろう。

自分の興味で言えば、19世紀印象派、新印象派の画家、ドガやマネがパステルをさかんに描き、近代絵画発展の渦中で画材としてあらためて見なおされ、「パステルが鎖を外し天に舞い上がった」と言われる前のパステル画も相当なものだったと知ったことが、おおいに収穫であった。
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