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丸谷才一「笹まくら」 [本]

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この「笹まくら」は、最近読んだ米原万里の著書「打ちのめされるようなすごい本」で紹介されている。彼女はどんなことに打ちのめされたのだろうか。
題名の「笹まくら」は鎌倉時代の歌人の「これもまたかりそめ臥しのささ枕一夜の夢の契りばかりに」という和歌から来ている。
著者は1925年生まれ、2012年87歳で没。この小説は昭和41年(1966)刊行だから作者が41歳の時のもの。自分の41歳の時のことを思い、こんな小説が書けたかと考えるとたしかに打ちのめさたような気分になる。
「歳の残り」、「たった一人の反乱」、「輝く日の宮」、「裏声でうたへ君が代」などと並ぶ代表作であるが、この作品を一番に押す人が多いという。
物語は、昭和15年晩秋(主人公、浜田庄吉が徴兵され入営を迎える前日)に、出征壮行会の準備をしている実家から「床屋に行く」と行って出かけ、そのまま逃亡生活へと入る場面で終わるという変わった構成に驚かされる。それまで語られた全ての出発点にいきなり立たされた読者は一瞬名状しがたい気分になる仕掛け。
また読者は、戦後のサラリーマンとなった主人公の生活と戦争忌避者として逃亡生活を交互に語られる展開に、抵抗感なく引き込まれる筆力にも驚かされる。
これらの小説手法は村上春樹の作品に多く見られるなと、ふと思う。複数の物語の同時進行、二つの世界の行き来などだ。村上春樹のデビューを丸谷才一が評価したというのも頷ける。そういえば性描写なども共通点があるようにも思う。品格に少し差があるが。
それにしても戦争忌避、逃亡者をテーマにしたことは戦後の日本の歩みを考えると意味は何重にも深い。
漱石の「草枕」もやはり戦争とは無縁ではないという。丸谷才一は後に「徴兵忌避者としての夏目漱石」という評論を書いているが、自分はまだ読んでいない。
図書館でついでに借りたのは「たった一人の反乱 」「七十句 八十八句」どちらも面白い。
なかでも後者(古希に編んだ七十句、米寿記念の八十八句)に収録された岡野弘彦、長谷川櫂との三吟歌仙(連句)は楽しめる。氏(俳号玩亭)の付けは分かりやすくて面白く、久しぶりに堪能した。
もともと自分は著者を連句から読み始めたのである。長い小説より、五七五 七七の方が良いのはあながち歳をとったせいばかりでもなさそうだ。
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