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岸田秀再読 その39「沈黙より軽い言葉を発するなかれ」」 柳 美里対談集」 2012 [本]

 

 沈黙より軽い言葉を発するなかれ 柳 美里対談集 創出版 2012

 

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 柳 美里(1968〜)は在日韓国人の小説家、劇団青春五月党主宰。「家族シネマ」で芥川賞。他に「八月の果て」、「フルハウス」など。今までこの人の作品は読んだことがない。

 

 岸田秀氏との対談は3.11震災原発事故をめぐるもの。事故の1年1ヶ月後に収録された。

 岸田氏の事故に対する見解は明快。原発は戦艦大和の建造と似ており、その事故は自閉的共同体の体質によるものだとする。

 平たく言えば原子力ムラであるが、歴史的に見ればペリーによる開国、富国強兵、太平洋戦争敗戦、経済復興すべてはこの自閉的共同体の悪弊が根底にあり、原発事故はその延長線上にあると断じる。柳美里氏もこれに異存はさそう。

 

 岸田氏の自閉的共同体からの脱却もまた明快。その悪弊を直視し、自覚して少しでも現代社会にマイナスの影響を与えるかを理解して自覚的、反省的に捉え直すことで克服出来るとする。しかしこれが容易でないことは、事故から13年以上経過した今、原発依存はむしろ高まり再生エネルギー軽視が続いていることから見ても明白だ。

 

 メルケルが脱原発を決断したドイツに比べて、日本は何がどう違うのか。自閉的共同体の悪弊以外にも何か他の要因があるのではないのか。更に考える必要があるだろう。

 

 故郷を追われた人の苦難はなお続き、被災地復興はままならず、原発事故の後始末はまだまだ手付かずと言って過言ではない。アンダーコントロールはまやかしだと誰もが思っている。一国の総理が世界に隠蔽し嘘をついた罪は大きく、子供への悪影響は計り知れない。自閉的共同体性はいや増していると言わざるを得ない。

 

 この本は岸田氏以外の対談も3、11後のありようや表現者らの苦悩を論じていてそれぞれ興味深く読んだ。

 

 しかし、あのとき誰もが、これから日本は変わるのではないか、と思ったにもかかわらず基本的には、さして変わっていないのではないかと訝る。この岸田ー柳対談は、そのことを示している様に思える。

 

 蛇足ながら本の表題「沈黙より軽い言葉を発するなかれ」は、柳美里氏は触れていないが、「まえがき」の人との対話において、声が重要だと改めて気づいた、というくだりと関係があるのだろう。沈黙は死者への礼という言葉もあるが、沈黙より重い言葉を持たない人はどうしたら良いのか。表題の受け止り方は人それぞれだけど、キャッチコピーとしては成功しているように思う。

 

 例によって記事と直接関係はないが、自分が3.11から2ヶ月後に書いた文章と腰折れを再読している。

 

大震災から2カ月 

 

https://toshiro6.blog.ss-blog.jp/2020-10-01-5

 

  平成二十三年五月  (2011.5)

  大震災から2カ月が過ぎた。この間、何もせずテレビを見ていた。

 今なお、ぼんやりとしている。

 原発事故まで引き起こした大津波地震が発生した日、以後世の中が変わるだろうと予感したが、本当のところは変わったのかどうかもわからない。

 

 生まれた翌年が開戦、敗戦時五才では戦争体験者とも言えないだろう。以来古稀に至るまで大きな災難を免れて来ている自分の幸運は、僥倖いや奇跡とも思える。

 有難いことであるが、それだけに被災者の方々の辛さを思うと、言葉を失い茫然として腑抜けになっている。

 

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 写真は水戸市に住む義兄の手づくり地震計。

 東京は地震も多かろうと、数年前家具を固定してくれた時に据え付けてくれたもの。

三月十一日、東京でもこの重い方の錘が大きく振れた。

 義兄は今回の地震の被災者でもあるが、東海村原研の元研究員なので近所の人から放射線の影響のことなど何かと頼りにされているよう。

 

 テレビ映像を見ていて腰折れ五首     

 

  山火事の消火のごとく原発へ  ヘリのバケツで水を撒くとは     

 

  海嘯(かいしゅう・津波)は車も漁船も流しけり  家もろともに人もろともに  

 

  ひと気なき浜を彷徨う黒い牛  ペレット飼料は牛舎にあるぞ

 

  校庭のグランド削るパワーショベル  子等の心も削られてをり

 

  あっけなくなゐ(地震)と海嘯この国を  三たび被爆の国と定めり

 

 注) 6首目 第五福竜丸被爆を含めれば四たびになる。(2023/11/23追記)


 

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