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リキテンスタイン [随想]


愛車ファンカーゴで新宿へ買い物に行くときは、たいてい中杉通りから南阿佐ヶ谷に出て青梅街道を走る。中野坂上を過ぎ新宿エリアに入るとすぐに右折する。地下駐車場のある京王百貨店までおよそ3、40分ほど。
10年以上も走っているがいつ頃からか新宿に行く時は右側に、帰りは左側に異様な物が道路際に立っているのが気になって仕方がなかった。なんだろう変なものだな、と思いながら人に尋ねることもなく長い時間が過ぎて行った。

これがかの現代アートの巨匠「ロイ・リキテンスタイン」の作品であるオブジェと知ったのはつい最近のことである。
 新宿アイランドタワー付近の地域にある10個の大型パブリックアートは、このビルを中核として周辺一帯を「新宿アイランド」として再開発した住宅・都市再整備公団が設置したものであるという。
このパブリックアートのなかでは、ロバート・インディアナの赤いオブジ「LOVE」が一番ポピュラーで有名であるが、少し離れた青梅街道側にリキテンスタインの彫刻・オブジェがある。

ロイ・リキテンスタイン(Roy Lichtenstein 1923年10月- 1997年9月)はアンディ・ウォーホルらとともにポップ・アートの代表的なアメリカ合衆国の画家である。
新聞連載の通俗な漫画のコマを、印刷インクのドットまで含めてキャンバスに拡大して描いた作品を多く描き残したことで有名だ。漫画の持つ単純だが強烈な線、単純化された色彩などの表現力を油彩で表現している。

わが国では東京都現代美術館の「ヘア・リボンの少女」購入問題 で一躍脚光を浴びたことで知っている人も多いだろう。
東京都現代美術館は1995年3月開館した。開館前、収蔵品としてロイ・リキテンスタインの代表的作品である油彩画「ヘア・リボンの少女」を618万ドル、約6億円で購入する。このことに対し「漫画みたい」という声が新聞で報道されて、「漫画のような絵を税金で買うとはどういうことか、6億円も出して!」と自治体による現代美術作品の購入を巡って同作品が世間の話題になった。これが「ヘア・リボンの少女」購入問題である。
この問題は、肝心の美術的な価値や芸術の専門的論議を差し置いて発言する先生方の現代美術に対する的外れな批判が云々されたり、自治体の美術館が美術市場の相場より高い値段で作品を買ってしまったかも知れぬ購入経緯の不透明さなども指摘された。

しかし、この問題自体に興味があるわけではない。現代美術とは、ポップアートとは何かという方に関心がある。ポップアートとは現代美術の芸術運動のひとつで、大量生産・大量消費社会をテーマとして表現するもの。雑誌や広告、漫画、報道写真などを素材として扱うものと美術の本にあるが、これがなかなか厄介である。

ポップアートの代表的画家であるリキテンスタインは1965年にコミック漫画の登場人物の絵を巨大なキャンバスに油絵で描いた。
その秘密はドットにあるという。当時の典型的なアメリカン・ビューティの少女の生き生きした肌つやをだすために、漫画の絵はドットつきで印刷されたが、リキテンシュタインはそのドットを忠実に油絵で再現したのである。油絵のつや感がある丸いドットを規則正しく描くことによって、子供にもわかる漫画を「絵画芸術」に仕立て上げたといえよう。
リキテンスタインの「ヘアリボンの少女」(1965 年)を東京現代美術館が大金を出して買ったのは、およそ30年後の1995年のことになる。

リキテンシュタインは何故漫画に惹かれたのか、リキテンスタインは、「漫画の記号性」を題材にしたという。漫画の記号性とは何か良く分からないが、このことについて彼は次のように語る。
「それは何かの絵のように見えるのでなく、物そのもののように見えるのです」 ( Roy Lichtenstein,Janis Hendrickson, 1995, Benedikt Taschen)。
リキテンスタインが漫画の記号性をとり出し強調することに成功したのは、漫画の印刷に使われるドット(網点)をそっくりに画面に描き込んだことによるとされる。彼の漫画絵画は、ドットの描写によって、印刷された紙面をそのまま拡大したような無機的で機械的な「物そのもののように見える」記号の側面を強調することに成功したとされる。

彼の漫画絵画を一目見たウォーホルは、自分はなぜこの「記号性」が思いつけなかったのだろうと嘆いたというから時代の背景も影響しているのだろうか。すぐに、ロイがこんなに上手に漫画をやっているのだから、自分はきれいさっぱり漫画をやめて、自分が一番乗りになれる他の方向 に進もうと決めたという。他の方向とは結果的に「量と反復」になったとされる。これで彼もまた漫画を題材として使おうとしていたことが分かるというものだ。
記号性を強調するリキテンスタインの漫画絵画は、このように同時代のウォーホルをはじめとする他の現代美術作家の主題の選び方と制作の方法に大きな転機を与えることにもなった。



リキテンスタインと並びポップアートの旗手とされるアンディ・ウォーホル(Andy Warhol、1928年8月 - 1987年2月)はリキテンスタインより5歳年下であるけれど、いわば同世代のアメリカの画家・版画家・芸術家である。
彼の作品は、上記のとおり「量と反復」がテーマとされるが、缶詰ラベルや日常生活で使う道具、著名人のリキテンスタイン肖像写真をもとに作成され、代表作は「マリリンモンロー」などである。「毛沢東」などとともに誰でも一度は見たことがあり、ああ、あれかというくらい知られている。リキテンスタインの記号性と同様「量と反復」についても、自分には良く理解出来るとは残念ながら言い難い。

素人には、彼等のテーマの難解さより他人の漫画や写真から作り出す芸術の模倣性の方が気になる。著作権は?パロディとの違いは?といった低レベルな話である。
現代美術を語る資格は無いのであろう。かといって某都知事のようにそれが「無そのもの」、「笑止千万」とも思えないのだが。

これは前にも引用したことであるが、司馬遼太郎は「水彩画や地誌画は英国美術の伝統でもあるが、ぎらつかないもの静かさが、英国人の好みにあうのにちがいない。主題や手法は古いが、それだからこそ安定していて、部屋にいる気分まで落ちつく。それらまでふくめて、英国のくらしの"趣味のよさ"といえそうである。」と街道をゆく愛蘭土紀行で言っている。その水彩画を八年近く稽古をしているやつがれにとっては、現代美術はとても手に負える代物ではなさそうである。もっともっと勉強する必要がある。

閑話休題、リキテンスタインはかくの如く絵画も難解だが、新宿アイランドに立つ彫刻・オブジェもそれ以上に難しい。異様なかたちとしか形容しようが無い。
公共施設にあるにしては「芸術性」が高過ぎるようにも思うが、不思議なことに誰も異を唱える者はなく長い間に自然に受け容れられている。自分がそうであったようにである。
多くの野外オブジェというものは大抵そんなものなのであろうか。











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