鮖(かじか) と鯊(はぜ) [自然]
我が幼年時代、少年時代は疎開地で過ごした時期である。
今考えれば、戦中、戦争直後だから何もかも乏しく、食べる物も遊びも殆どが自前だった。しかし、誰でもがそうであるように、そんな時であっても幼年、少年時代とは真に黄金時代でもあった。
遠い日の記憶中の一つに鰍捕りがある。
彼の地で子供らは「かちか」と濁らずに呼び、「ざこ」と呼んでいた「はや」とともに子供にとってはささやかな漁の、主たる収穫魚種だった。
空腹を満たし、不足がちなタンパク質を求め、かつ遊びを兼ねていたのだが、今では文字通り夢のなかの出来事だったように、時折り懐かしく想い出すことがある。
場所は近所を流れる小川、道具は小さな網、やす。石をひっくり返すとチョロチョロと逃げる。網に追い込む、やすで突く、時に手づかみで捉える。抱卵の時期には腹部がぷっくり膨らんでいる。石の裏に白や黄色の卵塊が付いていた。
鰍は串に挿しいろりで焼いて食べる。川魚独特の苦い味がした。卵は味噌汁に入れて見たりしたが、噛むとプチプチと音がして食感は面白いものの、子供の舌には美味しいとは思わなかった。
鰍はネットで調べると鮖とも書くと言うが、この体験からするとこの方がピッタリするような気がする。
疎開っ子 悴む手足鮖(かじか)追ふ
ウキペディアにはこうある。
カジカ(鰍、杜父魚、鮖、Cottus pollux)は、スズキ目カジカ科に属する魚。日本固有種で、北海道南部以南の日本各地に分布する。地方によっては、他のハゼ科の魚とともにゴリ、ドンコと呼ばれることもある。体色は淡褐色から暗褐色まで、地域変異に富んでいる。
また、歳時記の記述は以下の通りである。
鯊(はぜ)に似た五センチ余のカジカ科の淡水魚。東京では鰍と呼ぶが、北陸では鮴ごりと呼ぶ。水のきれいな川の中・下流から上流にまで棲み、浅瀬の石などの間にひそんでいて、なかなか姿を見せないので石伏いしぶしともいう。 季語秋。
例句 青笹に頰刺し鰍提げ来る 宮岡計次
鮖はゴリともいい、金沢のゴリの佃煮やゴリ押しの由来となった漁法が有名だが、我が疎開地ではゴリと呼ぶ人はいなかった。清流を好むので川の上流に棲むことが多いという。今はもう鰍追いなど出来ないのかもしれない。
かじかは鯊(ハゼ)に姿格好が似ているが、ハゼはドンコとも呼ばれ海にいるものが多い。ハゼの方がカジカより大型である。漫画アニメのハゼドンである。
鮖には鱗が無く鯊にはあるという。また鰭の形などが異なり見分けができるというし、鯊には鰭が変化した吸盤があるらしいが詳しくは知らぬ。
平成上皇がこの研究者であることは有名だ。
ネットや歳時記によればハゼは次の通り。
鯊(ハゼ)は、条鰭綱スズキ目ハゼ亜目(ハゼあもく、Gobioidei)に分類される魚の総称。Fishes of the World 5th Edition(2016)では、ハゼ科などを含む分類階級としてGobiiformes目がある。(ウキペディア)
ハゼ科の魚の総称。内湾や川の河口の汽水域などに棲息する真鯊は二〇センチ前後で、体は上下にやや扁平、頭と口が大きく、目が頭の背面に寄っている。日本全国に分布し、秋から冬にかけてよく太る。天麩羅や甘露煮などにする。(歳時記)
スズキ目ハゼ亜目の魚の総称。2,200種以上の種が知られており、多くは海水域で底生生活をする。ムツゴロウやシロウオなどもハゼの仲間である。季語 秋
鯊釣るや水村山郭酒旗ノ風 (嵐雪 「虚栗」)は好きな名句。
杜牧の「江南春」を踏まえているという句として有名である。
千里鶯啼緑映紅
水村山郭酒旗風
南朝四百八十寺
多少楼台煙雨中
終わりに
櫨(ハゼ)紅葉と七竈の違いを調べていて、音韻連想で「鯊(ハゼ)」を、そこからそう言えばハゼは昔よく追いかけた鮖(鰍カジカ)に似ているなぁ〜、と想い出した。
我ながら取り留めもない思考過程である。もっと考えねばならぬことが山ほどもあろうに、歳をとってその大事な方には、頭が回らなくなっている。耄碌寸前と言うやつかと、しみじみ情けなくなって来た。
鮖とハゼの見分け方
カジカ
鱗:ない。
尾鰭:角張る。
鰓蓋の棘:1本ある。
その他:各鰭がドンコより長い。
ハゼ(ドンコ)
鱗:ある。
尾鰭:丸まる。
鰓蓋の棘:ない。
その他:20cmを超えることがある。
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