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このあじさいの名は何? 番外編 ヒメアジサイ Makino [自然]


 朝ドラの主人公のモデルとなった牧野富太郎博士(1862?1957)の命名というヒメアジサイ。ネットの画像などを見ると確かに綺麗でかわいらしいが、ごく普通のアジサイである。

 そこら辺に植栽されているのかどうか知らないが、まだヒメアジサイと名前を確認して見たことはない。花の名前を先に知っていて、どんな花なのかこの目で確認したい時は、どうすればいいのか。

 

 ネットでヒメアジサイと入力して検索すると六甲山のヒメアジサイ、北鎌倉明月院のヒメアジサイ、練馬区「牧野記念庭園」のヒメアジサイなどの画像が出てくるから、それと似ているかどうか分かれば良いのだが、区別できるほどの特徴がない。(ような気がする)


 サラリーマンだった頃、子供のためではなく、自分の気分転換用(気晴らし用?)にと(仕事とはまったく関係がない)牧野日本植物図鑑(北隆館)を買ったこと、をふと思い出した。

本棚から引っ張り出して、あらためてみると、1060ページ(プラス77ページの学名解説)の大冊で、分厚くずっしりと重い。口絵の数枚を除き、モノクロの手書き絵であるところが特徴的な図鑑である。これがたぶん石版印刷であろう。(のちに北隆館から着色したものが発刊されたらしい)

 

 今回、「序」を読んでこの図鑑が1940年(皇紀2600年)7月の発刊だと初めて知った。この年は自分の生年であり、翌年が真珠湾攻撃つまり日米開戦である。このとき博士は78歳、序にこう記す。

 

 序 

 鳴呼,皇紀二千六百年,會々國難非常ノ秋ニ際シ、小生特=此記念スペキ新著ノ本 書ヲ完成シ、茲ニ初メテ其公刊ヲ見ルニ至リシハ至幸中ノ幸ト調フベク、熟ラ既往 ヲ追懐スレバ則チ轉タ感概ノ切ナル者ガ無ンバアラズデアル

 小生ハ我が少壯時代ヨリ疾ク既ニ植物圖志ノ本邦ニ必要ナルヲ痛感シ、逐ニ意ヲ決シテ明治廿一年ニ『日本植物志圖篇』ヲ發行シ、次デ『新撰日本植物圖説』並ニ『大

日本植物志』等ト逐次ニ公刊シタノデアッタガ、此等ハ皆不幸、中道ニシテ停刊ノ悲 運ニ遭遇シタ、大正十四年二『日本植物圖鑑』ヲ著ハシタ事モアッタガ、是レハ固ヨり我が意ヲシテ満足セシメ得ル勞作デハ無ク、ソハ畢竟一時臨機ノ應急本タルニ過ギ

無カッタ、故ニ早晩之レヲシテ絶版センムベキ機運ノ 到來スルノヲ俟テヰタノデアル ガ、遂ニ今日其待望ノ好期ニ際會シタノハ私ノ最モ欣ブ所デアル 以下略

                        昭和十五年七月

                       結網学人 牧野富太郎

                       録絛屋ノ南寓下ニ識ルス

 博士の号は結網子(けつもうし)だから結網学人(けつもうがくと)。

 録絛屋の「録」と「寓」はこの字ではなく、iPhoneのスキャナーアプリでは読み取れなかった。

 結網とは、文字通り網を結うことで中国の史書「漢書」にある言葉。「古人曰うあり、淵に臨みて魚を羨まんよりは、退いて網を結ぶに如かず」(淵に立って魚を得たいと願うよりは、家に帰ってそれを獲るための網を結ったほうがよい=何事も実行第一)?実践を重んじる博士らしい号ではある。

 

 この図鑑の、あじさい(学名Hydrangea*)の項は、957 がくあじさい、958 あじさい、959 ひめあじさい、960べにがく、961 やまあじさい、962 ほそばこがく、963 こあまちゃ、964 がくうつぎ、963 こあじさい、966 たまあじさい、967 やはずあじさい、968 のりうつぎ、969 つるでまり、の13種(いずれもユキノシタ科)が収録されている。他に971 くさあじさいがあるが、あじさいの花に似ているだけで別種である。

*学名解説は次のとおり。Hydrangea hydor(水)angeion(容器) さく果の形からきた名 ユキノシタ科

 

 このうち959ひめあじさいは、学名のなかにMakino(serata Makino var.amoena Makinoが入っているので牧野博士が名付け親とわかる。「庭に栽培される落葉低木で、まだ野生は見られていない。中略 [日本名]花が普通のアジサイより女性的で優美なので姫アジサイとなづけたもの。」とある。

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牧野日本植物図鑑(北隆館)よりひめあじさい
 
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ウキペディアよりひめあじさい

 他のネット情報によれば、ヒメアジサイは、エゾアジサイの花序全体が装飾花になったもので、1929年に牧野富太郎が長野県戸隠付近で見たエゾアジサイの品種に命名したとある。このエゾアジサイは牧野日本植物図鑑には無い。ウキペディアには、「エゾアジサイ(蝦夷紫陽花[学名:Hydrangea serrata var. yesoensis)は、アジサイ科アジサイ属の落葉低木。別名では、ムツアジサイともよばれている。植物分類学ではでは、ヤマアジサイの変種とされる。」とあるので961やまあじさいの変種の変種と見て良いだろうと思う。

 

IMG_8973.jpeg
エゾアジサイ ウキペディアより

なお、958あじさいは、「もとガクアジサイを母種として、日本で生まれた園芸品である。中略[日本名]「あじ」は「あつ」で集まること、さいは真「さ」の藍の約されたもので、青い花がかたまって咲く様子から名付けられたもの」とある。 こちらは学名(Seringe var.Otakusa Makino)のなかにMakino とOtakusa が入っているが、その理由は不明。 Otakusaは例のシーボルトの妻おタキさんから来ているのだろうが。

 

 あじさいの母種である、957がくあじさいの学名(Hydrangea macrophylla Seringe)にMakino の名前が入っていない理由も分からない。

 

 他にMakinoの名前が入っているのは、次の四種。

 960べにがくserata Makino var.Japonica Makino [日本名] 紅額で、紅色のがくを持ったアジサイという意味。

 961やまあじさい serata Makino var.? acumuminata Makino北海道、本州、九州の山地に多いので日本名は山アジサイ、沢アジサイという意味で名付けられた。

?962ほそばこがく serata Makino var.angustata Makino [日本名]小額で、小形のガクアジサイという意味。

 963こあまちゃserata Makino var.Thunbergil Makino [日本名]アマチャは葉を乾かすと非常に甘くなるが、それで甘茶をつくるからである。

 

 あじさいの名ひとつ例にとっても、いやはや複雑で素人には良く分からない。まして学名や花、葉、茎、根、樹形などなどになると区別もつかない。しかも植物の種類は多く牧野博士の偉業たるや凄まじいと驚くばかりである。

 

 青空文庫で博士の著書、自伝などが読めるが、ここしばらくは、のんびり連続テレビ小説を愉しむだけにしよう。


 

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