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水上勉の「原子力発電所」と岸田秀氏の「ペリー来航」 [雑感]

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水上勉は、1919年(大正8)生まれ、2004年(平成16)85歳で亡くなった。
1961年(昭和36)「雁の寺」で直木賞を受賞して間もなくの作家活動には目を瞠るものがある。
「飢餓海峡」、「五番町夕霧楼」、「越前竹人形」、「越後つついし親不知」(四作とも1963年)などを次々発表した。題名だけ知っているのみで、これらの小説を含め、ほとんど読んでいないから氏の作品について語る資格は自分にはない。
しかし随筆などを通して、本業の小説以外のことでは、幾つかの作家のエピソードにについて関心を持っていた。
ひとつは、離婚した前妻との間の長男窪島誠一郎(信濃デッサン館、無言館館主。1941年生まれ美術評論家、著作家) 氏との再会のこと。窪島氏には「父への手紙」(1981年筑摩書房)がある。

もうひとつは、作家が次女の身体障害もあって、福祉問題に熱心に取り組んだこと。水上勉の著書に「車椅子の歌」(1967年)、「拝啓池田総理大臣殿」がある。

また、心臓や眼の病を得てから75歳を過ぎて、パソコンやインターネットなどに強い関心を示し、自らも使いこなすとともに障害者、高齢者の道具として活用すべく考えていたこと。水上勉は、高齢者のe生活を模索した先達なのである。
著書に「電脳暮し」( 哲学書房 1999 年のち光文社知恵の森文庫)がある。

ところで、水上勉は福井県若狭郡大飯町出身である。福井県には15基の原発があり、大飯にはそのうちなんと4基もある。いまや再稼働、活断層問題で日本中が注目している地である。
水上勉は「植木鉢の土」(2003年 小学館)で次のように書いている。
「心理学者の岸田秀さんは、日本にペリーが来たときから、日本人の外的自己と内的自己の相剋が始まったと言われた。ペリー来航によって、近代日本は、欧米諸国に屈従する外的自己と、欧米諸国を憎悪し、誇大妄想的自尊心に立てこもる内的自己に分裂し、そのせめぎあいの中にあるというのだ。それにならって言えば、わたしの外的自己と内的自己の相剋は、原子力発電所に始まっている」
さらに、昔は鯖街道で若狭から京都へ鯖を送り出し、今や福井から電気を京都に送っていると言い、複雑な心境を吐露しつつ、東海村で起き、死者の出た原発事故が故郷の大飯で起きないかを案じていた。
作家が生きていたら、平成23年3月11日の福島の原発事故をどう言ったか。大飯原発の再稼働に何と言ったか。

岸田 秀氏は1933年生まれで79歳。心理学者、精神分析学者、思想家、エッセイスト、和光大学名誉教授である。著書は「ものぐさ精神分析」(1978年)、「性的唯幻論序説」(2005年)など多数ある。
週刊誌等に対談・エッセイなどで登場することも多いが、独特の論旨で語り口も個性的でファンも多い。
丁度サラリーマンをやめた頃、図書館で「不惑の雑考」(1986年)、「古希の雑考」(2004年)など何冊かを借りて読んだ。唯幻論、共同幻想、外的、内的自己分裂とか人間の本能は壊れているなど、耳新しい言葉が面白かった。自我は家族に国家に及ぶという一貫した考え方は、何となく納得感がある。
しかし、40年近くひたすらサラリーマンを勤めてきた者にとってはどこか、何か説明出来ないのだが、少し違和感もあったことも覚えている。

その岸田秀氏は福島の原発事故について発言している。
「敗戦と原発事故は「人災」という点で合致しています。「人災」を生んだのは、日本軍にせよ原子力ムラにせよ、自閉的共同体が組織を構成していたからです。自閉的共同体とは自分たちの安全や利益しか見えず、しかもその自覚がない視野狭窄者の集まり。そうした共同体たる日本軍が日露戦争以来、強い軍事大国であるという「幻想」を捨てられず、結果として多数の犠牲者を出しました。同様に原子力ムラという自閉的共同体も原発は安全だという「幻想」に依って立ち、未曾有の被害をもたらしてしまった。日本軍と原子力ムラの精神構造は同一です。敗戦や事故の可能性はかねて指摘されていたのに、自閉的共同体にはそれが見えなくなっていたのです」「サンデー毎日 」(10・23号 「3.11と日本人の精神構造」)
(原発事故は、自閉的共同体の幻想を捨てるため天がくれたチャンスだ)

引用部分の岸田秀氏の発言については、氏の精神分析、論考から言えば、想定内のことであるが、むしろ国家の精神がこうなった大元の個人の自我、家族の精神との関係、多数の自我、家族が幻想を捨てても、国家が幻想を捨てられないのは何故か、政治はそこでどういう役回りをはたすのか、つまるところ、これからどうすればよいのかを、知りたいのは自分ばかりでは無いであろう。
たぶん、「原子力発電所」が我が「ペリー来航」だとまで言って亡くなられた水上勉も。
むろん我々一人一人が考えねばならぬことで、人に教えて貰うようなことでは無いのだが。
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