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優しい声で [随想]

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先日、家人と二人で六本木のレストランで食事をしたときのことである。
我々があれにするか、これにするか散々迷ってから注文が終わった時、隣の席に定年退職して数年経ったかと思われる年格好のご主人とその奥様が座られた。
ご主人がメニューを手にして奥様の顔を見る。奥様は一言、「生姜焼き」とおっしゃってあとは沈黙。ご主人がウエイトレスに注文したあとも、二人は言葉を交わすでもなく静かに待つだけ。失礼になってはとそのあたりで眼を逸らしたが、つくづく自分も同じだなと思い、いっとき考えこんだ。
家人に食事は会話も楽しまねば、と言われ続けているのである。
冗談だが、レストランなどで会話が弾んでいるふたり連れの男女は、まず夫婦ではないと言うくらいである。夫婦でなければなんだと言われても、何とは知らない。
自分も食事の時にかぎらず、その場に適切な話題を持ち出して、座を盛り上げることが苦手だ。これは多勢の時でも二人での時も同じである。
自分の場合は若い時からのことで、年をとったからというわけではないが、多くの老夫婦は会話を楽しまず、そのくせ心は通っていると男は錯覚している。しかし女性は、そういう男をつまらないと思っていることは、明らかだ。
よその人と話す時の方が、声も大きく饒舌になったりして、あとで自分を嫌な奴めと思ったりすることもある。
結婚して50年近くたったからと言って、会話無しで意思が通じるとか、黙契、阿吽の呼吸だなどと思ったら間違う。要注意だ。

これも先日のこと。散歩中に、向こうから携帯電話で話しながら歩いて来る、若やいだ顔のおばさんとおぼしき女性とすれちがった。通り過ぎるとき「そんなこと言っちゃダメよ」と言っているのが聞こえた。限り無く優しい口調である。一緒に歩いていた家人が、あれはお孫さんの携帯と話しているのよ、と言う。どうしてわかるのかと聞くと、あんなに優しい話し方は、お子さんに対してでは無いし、まして旦那さんではないと。さすれば、あとはお孫さんしかないと断言する。

あなただって家の猫に話しかける時に、普段と違った声で「ニャンコや」と言うでしょと、のたまった。
なるほどその通りである。我が家に猫が来る前は、犬を散歩させている女性が限り無く優しい声、口調で犬に話しかけているのを見て、怪訝に思ったものであるが、知らない間に自分がそうなっていたとは、と仰天している。
それにしても会話自体少なくなっているうえ、いつも顔を合わせている家族に対する話し方は普通のトーン、といえば聞こえが良いが、むしろ抑揚もない単調な話し方となっているとは我ながら情け無い。それだけでなく、ペットに対しては声色が優しく変わるとは、何としたことか。呆れたものである。心を入れ替えねばなるまい。

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