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ジョン・シンガー・サージェントの水彩画 [絵]

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ジョン・シンガー・サージェント(John Singer Sargent 1856年 - 1925年)は、19世紀後半から20世紀前半のアメリカ人の画家。フランスで美術を学び、おもにロンドンとパリで活動した。上流社交界の人々を描いた優雅な肖像画で知られる。
サージェントはこの時代の画家としてはホイッスラー、メアリー・カサットと共にアメリカ人三大画家の一人などとも云われた。(ホイッスラーの代表作は「灰色と黒のアレンジメント:母の肖像」。カサットは「青い肘かけ椅子の少女」と言えば知っている人も多いのでは。)

サージェントの肖像画で最も知られているのは「マダムX」(1884年 油彩)。
この絵は人妻を描いたものとしてはあまりにも官能的であり、品がないとして当時の批評家から酷評され、多くの鑑賞者からは非難された。画家はいわばスキャンダルに巻き込まれることになったことで有名になる。描き直す前は、一方の肩紐がずれていたというから、当時のお堅い頭を刺激したのだろうか。ただし、ずれはドレスのデザインのせいであって画家に非はない。このことは知る人ぞ知る話。
モデルからはこの肖像画の受け取りを拒否され、晩年まで自分の手元に置いていたが、メトロポリタン美術館に寄贈され、現在では「アメリカの至宝」とまで呼ばれる存在になっているという。

水彩画の絵は1,883年の作品「ゴートロー婦人」。
ゴートロー婦人とは「マダムX」のモデルとなったヴィルジニーのことで、サージェントはほぼ同じ時期に、油彩、水彩の双方で彼女を描いている。比較して観ると面白い。
油彩のほうは、ヴェラスケス流に、きびしく明暗をはっきりさせて、女性の官能的な姿を浮かび上がらせているが、水彩で描いたこちらの絵は、大人の女性美をおおらかに描いている。画家は、画材のそれぞれの特性を生かしながら、油彩、水彩の表現手段を適確に使い分けたのである。

肖像画家として知られたサージェントは、スキャンダルの影響もあったのか1907年頃からは肖像画をほとんど描かなくなる。晩年は主として水彩の風景画を制作したという。1925年、ロンドンで没した。69歳。

マダムXのほか油彩画の代表作の一つに、「カーネーション、リリー、リリー、ローズ(1885-1887年 テート・ギャラリー)」と題名もちょっと変わった絵がある。
当時日本から輸出されていた盆提灯がいくつも描かれ、咲いているユリは日本から球根が輸出されていたヤマユリ。当時のヨーロッパ画壇を席巻していたジャポニスムの影響がうかがわれる。
余談ながら上記ホイッスラーにも浮世絵風の「青と金のノクターン 、オールド・バターシー・ブリッジ」や着物姿の女性の絵がたくさんあり、こちらの方が日本美術の影響はより濃厚だ。

サージェントは、印象派やフォービスム、キュビスムが台頭した美術革命の中で、伝統的な古典技法によって多数の肖像画を描いて「最後の肖像画家」と称された。卓越した技術力を持ち、油彩ではアラプリマ技法(直描き)による軽やかな筆使いを得意とした彼は、「絵が軽薄すぎる、精神性がない」と批判もされたが、今日では「国際的に活躍した肖像画家」のひとりとして歴然と絵画史に残っている。
約900点の油彩画と2000点近い水彩画、そして膨大な数のスケッチやドローイングを残しており、特に水彩画ファンにとっては人物画、風景画などに素晴らしい作品が多くあって参考になる。

人物画はやはり秀作が多いが、なかでも好きなのは「Miss Eden 」1905年。画集ではマテリアルの記載がなかったので、勝手に水彩画と決めつけたが、油彩だとしたらまさに水彩画風のタッチということになる。多分水彩画であろうが、決して油彩の迫力に負けていない。線を使わず色の面の輪郭が簡略な美しい線を作り出している。背景のカーテンの赤も素晴らしい。この赤は油彩風で鮮烈だ。(あとで調べたら、「グヮッシュ水彩画」とあった。透明水彩・watercolorが使用されているかどうかは未だ不明。)
ほかにも1911年の作品「サンプロン峠」、「The Garden Wall 」(1910年)、「Camping at lake 」(1916年)など水彩の明るい色が生き生きと輝いている。風景の中に、人物がさりげなく描かれているものに良い絵があるように思う。

アメリカ水彩画は、伝統的に野生動物が一つの主題になっているというが、「泥んこの鰐 Muddy Alligators 」(1917 年)は、アメリカアリゲーターの群れがリアルに描かれ印象的だ。

風景画ではヴェニスを描いた1904年の作品「サンタ・マリア聖堂」、「Grand Canal,Venice 」(1907年 ナショナルギャラリー)など素晴らしい絵がある。下の絵は「大運河、ヴェニス」。

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現代の水彩画家も同じような構図で、同じような雰囲気の絵を競って描いている。日本人水彩画家も同様である。プロアマを問わず水彩画を描く皆が目指しているような、いわばお手本となるような絵が多い。

サージェントの水彩画の特色は、ウェット・イン・ウェットといっておおまかな明暗配分を施した後、紙が乾いてから、細部を仕上げるという我々もやる手法だが、製作は非常にスピーディであったといわれている。
水彩画の特徴は短時間に美を捉えるところにある。現代の水彩画家にとって、サージェントは早描きでも良き手本だ。
自分は水彩画家でもなく評論家でもなく、サージェントの絵の芸術性など云々する能力も持ち合わせていないが、線画水彩でなく色彩を重視した絵はアマチュアの自分にも参考になる水彩画が多いことは確かである。
何より見ていて楽しい水彩画なので、これからも時々画集を取り出して見ることにしようと思っている。
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