SSブログ

セザンヌとゴッホの水彩画(2/2) [絵]

ゴッホは、1879年、26歳頃の早くから水彩を描いているが、油彩と同じようにアルル時代から明るい基調の絵に転換する。
数多くの名作を描いた彼のアルル時代は、1888年から89年の2年間に過ぎない。1853年生まれだから、35、6歳ということになる。一年後のサン=レミの精神病院での療養後、1890年37歳で早世したから、既に晩年のゴッホということになる。

ゴッホの水彩画は、若い時のものもそうだが画面いっぱいに描いていて、いわば余白がない絵が多い。しかも、油彩も同じで、全体としては几帳面な絵だ。タッチは荒いものもありいろいろだが。
しかし、あらためて水彩画を中心に見ると、良い水彩画が多いのに驚く。特に1888年前後から亡くなる1890年までの数年間の絵は、油彩に劣らぬ迫力を持っているように見える。
油彩と同じ画の水彩もあるが、ゴッホの場合、水彩は下絵、本制作のためのスタディだったのだろうか。水彩のタッチも油彩風のものがあって一見してゴッホとわかる。

image-20130623111954.png

「Coalmine in the Borinage 」(1879)ボリナージの炭鉱。初期の水彩画。
「Carpenter 's workshop Seen from Artist's Studio 」(1882)窓からの眺めを描いた緻密な絵。
「Shed with Sunflowers」( 1883 )shedは納屋、家畜小屋などのこと。「向日葵のある小屋」。空の紫がかった青の塗り方がいかにも水彩らしい。
「Entrance to the Moulin de la Gallete 」(1887)これも水彩らしくて良い絵だと思う。油彩でも描いているかと探したが、見つからなかった。
「The Zouave Half Length 」(1888 ) 油彩もあり並べてみた。水彩もモデルの人柄を表しているように見た。
「The Langlois Bridge at Arles」( 1888 )「ラングロア橋」は跳ね橋の別称。この絵は数枚あるが、「油彩」、「水彩+グワッシュ」、「水彩のみ」の3枚を並べて見た。油彩が有名だが、水彩+グワッシュがこれに近く「水彩のみ」はいかにも水彩らしく淡い。もちろん画像だから、本物は印象が違うかもしれないが。どれが好きかと言われると迷う。

image-20130623112012.png

「Morning, going out to work」 (1888 Watercolor and Ink on paper)油彩風の水彩画。
「The Mill of Alphonse Daudet Fontevieille」 (1888 Watercolor and Pen)
ペンを使った線画水彩。
「Fishing Boats on the Beach at Saint -Marie's -de -la -Mer 」(1888 watercolor )
ペン、油彩もある。並べてみて好きずきだが水彩画が、漁船、砂浜など鮮やかなうえに、配色が一番良いように思う。油彩より強い感じを受ける。
「Harvest in Province,at the Left Montmajour 」(1888)緑色が印象的。油彩に黄色を基調とした有名な絵がある。
「Trees and Shrubs」( 1889 )
「Oleanders, the Hospital Garden at Saint-Remy 」(1889 )Shrubsは低木、 Oleandersは夾竹桃。2枚ともゴッホの油彩のタッチと分かる独特の水彩画。魅力的だ。点描画の雰囲気。
「Landscape with Bridge across the Oise 」(1890 )空の雲は白グワッシュか。作物の緑も印象的だ。

image-20130623112039.png

「Old Vineyard with Peasant Woman」 (1890 )「古い葡萄畑と農婦」ゴッホには珍しく色を抑えた青基調の絵。タッチはゴッホの油彩例えば、「糸杉」そのものに似て激しい。
「The Night Cafe in Arles」( 1890 ) 油彩もあり並べてみた。これも水彩の方が鮮やかで明るい。油彩は沈んだように見える。
「Pollards Willow」(1882 )油彩でもたくさん描いた「芯を止めた柳」。例えば「芯止め柳と夕日」(1888)など。
「Fortification of Paris with Houses」( 1887 )Fortificationは要塞。
「Breton Women」( 1888)「ブルターニュの婦人群像」。ゴッホの水彩では珍しいタイプだと思う。青白い帽子、肩掛けが目を引く。
「Stone Steps in the Garden of the Asylum 」(1889)
「Trees in the Garden of the Asylum 」(1889)Asylumは収容所。ゴッホは囚人、貧しい農民、老人など弱者を多く描いた。刑務所のようなところにも足を運んだのであろう。
「Country Road 」(1890)モノトーンで昔の絵に戻ったように暗いのは何故だろう。

前回書いたが、セザンヌの水彩と油彩を同じモチーフの絵で比べると、その間に「距離」があるように思うが、ゴッホはそれが近いと感じる。
オイルでもウオーターカラーでも目指すものに向かい、ひたすら一途に描いている感じだ。上掲の「漁船」や「アルルの跳ね橋」などはその典型。

興味があったので、注意して水彩で向日葵だけを描いたものや自画像がないか探したが、残念ながら見つけることが出来なかった。

さて、セザンヌの水彩画の本格開始時期は、ゴッホが盛んに明るい水彩画を描いていた時期とほぼ一致するが、それがどんな意味を持つのかは、分からない。二人に直接の接触はなかっただろう。時期の一致は単なる偶然だけかもしれない。不学の自分には、手に余る疑問だ。
分かっていることは、その時ゴッホにもう時間が残されていなかったということである。
今回あらためて画集を眺めながらゴッホの多作に驚いた。特に亡くなる直前の数年間のおびただしいばかりの作品数には圧倒される。油彩が多いからまるで油絵の具をぶつけるようにして、毎日傑作を量産していたようにさえ見える。
セザンヌが、油彩と水彩の間を往き来して愉しんでいるように見えるのとは対照的だ。
ゴッホにも水彩と油彩と両方同じものを描いたものがあるが、油彩だけのものが大部分であり、水彩と両方あるというのは少なくて今回取り上げた幾つかはむしろ例外的なもののような気がする。下絵もペン、チョーク、チャコールなどだけのものが多い。ゴッホには時間がなかったのだ。

しかし、セザンヌが水彩を本格的に描き始めたという1885年度前後から、その後1906年67歳で亡くなるまで描き続けたように、ゴッホが水彩画をあと20年ほど描き続けたら、セザンヌのように余白を生かした絵を描いたかも知れぬと想像してみるのは勝手だ。

ゴッホの日本趣味は有名だが、油彩にとどまっている。余白の多い浮世絵などからゴッホの水彩に影響が及ぶのは時間の問題だったかもしれぬなどと。
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。