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ベルト・モリゾの水彩画 [絵]

ベルト・モリゾ(Berthe Morisot、1841年- 1895年)は、19世紀印象派の女性画家。マネ(1832-1883)の絵画のモデルとしても知られる。マネの弟ウジェーヌ・マネと結婚。54歳で歿。
モリゾの画風は、対象を自然の光の中でおだやかに表現したものが多く、ブルジョア家庭の母子の微笑ましい情景などを多く描いている。
男性中心の19世紀における初期の女性画家ということもあって、フェミニズム研究でのアプローチが多いというが、自分の興味はマネの影響を受けてどんな水彩画を描いたかにある。また、モリゾにとって水彩画はどんな位置づけだったのかということにある。

モリゾも油彩画家であるが、たくさんのパステル画、水彩画もある。油彩のための習作が多いのだろうが独特の動きある早い線、軽やかなタッチが特徴だ。女性特有というよりモリゾ特有である。

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1868年、モリゾは9歳年上のマネと出逢う。それ以前の油彩、水彩の作品とも数はあまりない。
「The Artist Sister Edma seated in a park 公園で座る画家の姉エドマ」(1864 水彩 24.9×15.1cm)
「Rosalie Reisener 」(1866 水彩)

参考にマネと出逢う前の油彩も一枚。印象派らしい絵を。
「Old Path Auversオーヴェルの古径」( 1863 油彩45×31cm)

マネに師事し、モデルもつとめ、マネの弟ウジェーヌ・マネと結婚したのが1874年。
その頃の水彩画。
「On the Sofaソファで 」(1871 水彩)
「Woman and Child on a Balcony婦人と子ども 」(1871-2 油彩)水彩とする画集もある。油彩に見えない。
「On the Balcony バルコニーで」(1872 水彩)これは明らかに水彩。
「Woman and Child Seated in a Meadow 牧草地に座る女性と子供」(1871 水彩)
「The Artis't Sister Edma with her Daughter Jeanne 画家の姉エドマとその娘ジーン」(1872 水彩 )

モリゾの代表作のひとつ、「揺り籠」はこの時期のもの。モデルは画家の姉とその娘だが、自分は今までずっとモリゾとその娘と誤解していた。
「The Cradle ゆりかご」(1872 油彩 56×46cm)絵は油彩ながら淡く、水彩画風のトーン。

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モリゾの水彩画は、独特の雰囲気を持つ。鉛筆などを使ったものは少ない。出来るだけ制作年順に並べて見た。
「Aboard a Yacht ヨットに乗って 」(1875 水彩)
「Boat at Dock ドックのボート」(1875 水彩)
「Boats - Entry to the Medina in the Isle of Wight (pugad baboy)ボート」 (1875 水彩)ワイト島はイギリス南部の島。
「By the Water 水辺」(1879 水彩)モリゾと夫ウジェーヌ・マネであろう。
「Snowy Landscape (Frost) 雪景色」(1880 水彩)
「young Woman in a Rowboat ,Eventail 手漕ぎボートの若い女性」(1880水彩)
「Little Girl Sitting on the Grass 草に座る少女」(1882 水彩)
「Autumn in the Bois de Boulogne ブーローニュの森の秋」(1884 水彩 )有名なブローニュの森はパリ16区の森林公園。
「Julie and Her Boat ジュリーとボート」(1884 )ジュリーはモリゾの娘。
「Lady with Parasol Sitting in a Park 公園で座るパラソルの婦人」( 1885)
「The Tuileries チュイルリー公園」(1885 )有名な公園はチュイルリー宮殿の跡地。
「Fall Colors in the Bois de Boulogne ブーローニュの森の秋色」(1888 水彩)

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「Swans 白鳥」(1888)
「Carriage in the Bois de Boulogne ブーローニュの森の馬車」(1889)
「Julie Manet ,Reading in a Chase Lounge チェイスラウンジで本を読むジュリー・マネ」(1890)
「Jeune Fille a la Levrette 」(1893 )
「Under the Trees in the Wood 森の木の下で」(1893)
「The Banks of Seine セーヌの堤」(1894 )

「Julie Seated 座るジュリー」(date unknown )
「 The Bois de Boulogneブローニュの森 」(date unknown )

さて、こうして並べて見ても水彩画でみるかぎりでは、モリゾの絵にマネの影響を見つけるのは難しい。マネにもいく枚か水彩画があるが、およそモリゾの水彩画はそれと似ていない。モリゾの水彩画は、軽やかで明るく塗り残しも多い。
殆ど鉛筆やチョークを使わず、線も水彩絵の具の線である。マネと知り合う前と後と、モリゾの水彩画が特に変わったところは見当たらない。専門家には影響を見出すことが出来るかも知れないがアマチュアの自分には無理のよう。
もっとも、油彩でも師の影響などといっても難しいだろうから、最初から無理な疑問だったのかも知れない。パステルでも同じことのようだ。
むろん師の影響が絵に出るようでは、画家の独自性、個性が消えるだろうから当たり前のことでもあろう。

水彩画を沢山描いたモリゾにとって、それは何だったかと考える時、参考になる3枚の絵がある。モリゾは1895年に風邪で亡くなったが、その4年前のいわば最盛期の作品である。

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「The Cherry Tree(Study)さくらんぼの木(習作)」(1891水彩 44×27.5cm)
「The Cherry Picker さくらんぼ摘み」(1891 パステル 136×89cm)
「The Cherry Tree さくらんぼの木」(1891 油彩 192×85cm)

同じさくらんぼ摘みの絵を、水彩、パステル、油彩で描いている。
水彩は「習作」とあり最も小さい。今でいえばF6前後のスケッチブック大であろう。次がパステルで縦1.36m、一番油彩が大きい。油彩画は、縦が1.92m、人の背丈ほどある。
このさくらんぼの絵の場合、水彩画は明らかに、パステル、油彩を描くために、手元に置く下絵であろう。つまり最初に水彩を描き、それを見ながらパステル、油彩に取り組んだのではないか。水彩で描き止めたものを再現し、より素晴らしい絵を目指したのであろう。
モリゾの上掲の多くの水彩画も基本的に小さい。彼女にとって水彩は油彩を描くための習作、下絵だったのであろうと思われる。
これは当時の画家にとって当たり前のことで、他の画家でも同じことだが、後世に習作の水彩画が多く残った画家とそうでないものとがいるのだろう。もちろん習作に殆ど水彩を使わぬ画家もいたに違いない。

ただ、モリゾの「さくらんぼの木」で水彩とパステル、油彩を見るとまず気がつくのは、下絵の水彩をかなり忠実に再現していることである。構図はもちろん、全体にあまり逸脱していない。絵の写真映像を同じ大きさにして並べる、つまり水彩を拡大するとそれがよく分かる。
さくらんぼを摘む少女の顔がパステル、油彩では次第にはっきり見えて来るが、それも注意して見ないと分からないほどの差である。

しかしよく見ると、水彩とパステルは絵に動きが感じられ、油彩ではそれが消えて静かにしっとりとした絵になっている違いが判る。
画材の特質もあるのだろうが、最終的にモリゾが目指したのが油彩だとすれば、静かながら落ち着いた絵が好きだったのだろうか。
それにしても原画たる水彩には明るい動きがある。パステルも動きがあって然りだが、それが油彩になると消えてしまうのは少しく勿体無いような気もしないではない。

所詮アマチュアの見方で間違っているかもしれないが、モリゾの水彩画はそれだけを見ていても独立したタブローのように愉しめる。
下絵は、画家が最初に描きたいものを描き止めたものだから、インパクトもあるのだろう。

水彩画は、手早く美を捉えるに適った画材であり、これが特質で良さでもあるが、良い水彩画とはどんなものかを考える時、モリゾの水彩画はアマチュアの自分にも参考にになりそうである。
自分のように塗り重ねてはいけないのだ、と改めてしみじみと反省しているところである。

蛇足ながら、モリゾの自画像とマネの「バルコニー」に描かれたモリゾ(detail)を比べて見た。モリゾの自画像のきっとした顔を見ていると、難しい時代に女流画家として生きた彼女の強い意思を感じる。この強さならマネの影響など受けなかったであろうという気がする。フェミニズム視点の見方などもあまり意味がないとさえ思う。



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