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古賀春江の水彩画 [絵]

画家と知っているひとでも、古賀春江をいっとき女性だと思っていた人は多いのではないか。自分も長いことそう思っていた。美人画の上村松園(1875-1945)が上村松篁画伯(1902-2001)の母親と知らず男性画家だと思っていたのと同じである。不学、無知が恥しい。
古賀 春江は1895年福岡久留米市の善福寺に長男として生まれた。 本名は亀雄(よしお)。後に僧籍に入り古賀良昌(りょうしょう)と改名する。「春江」は雅号か、絵のサインもはHARUE KOGA。 通称であろう。大正期に活躍した洋画家で、日本の初期のシュルリアリズムの代表的な洋画家と評される。

1912年中学を退学、上京。太平洋洋画研究所、日本水彩画研究所などに属する。石井柏亭氏に師事、絵を学んだ。画家としての活躍は1917年二科展入選後から。
1916年21歳で結婚するが、1920年その妻が死産する。そのショックもあったのか1927年頃から神経衰弱に苦しむ。強迫観念などにも悩み、次第に心身ともに衰弱して1933年 38歳の若さで亡くなっている。

古賀春江の代表作は「海」(1929)。水着の女性が天を指差しているモンタージュの油彩画。大正モダンの前衛的な絵画として知られる。
彼の作品はポール・セザンヌ、キュビスム、シュルレアリスム、クレーなど西洋の多くの美術動向や画家の影響を受け、短期間のうちにその作風がめまぐるしく変わっているのが特徴とされる。解題詩を含めて詩も書いた。

水彩画も何枚か描いているが、クレーの影響を受けた絵に多いようだ。
古賀春江は水彩画についてこう言っている。

「水彩は長編小説ではなくて詩歌だ。
そのつもりで見てほしい。
水彩は、その稟性により、
自由にして柔らかに而して
淋しいセンチメンタルな情調の象徴詩だ。
そのつもりで見てほしい」「水絵の象徴性に就いて」

「水彩の稟性」というのは何か知らないが、水彩が詩歌なら油彩が長編小説なのだろうか。

その水彩画を何枚か掲げてみよう。

image-20131212085930.png


「竹林(竹藪)」(1920 水彩)

「牛を焚く」(1927 水彩)解題詩の1節。「…牛はぼうぼうと燃える焚木の上に乗せられて、楽しさうに何か喰べてゐた。山の上であった…」

「窓外風景」(1927 水彩)
同じく解題詩の1節「…光線を手で撃って見て 精神の位置がわかるだらうか 窓を閉めて
よごれた顔に掌を被せる…」
難しくて自分にはとても理解できない。

「無題 」(1930頃 水彩)昭和5年頃と言えばまだ戦争の足音は聞こえなかったか。ワイングラスが目をひく。

「好江夫人像 」(水彩 ) 結婚生活は1916ー1920年の4年間。この絵は西洋の画家などの影響を受けていないように自分には見える。古賀春江独自の絵のような気がして好ましい。

「花 」(水彩)パウル・クレーあるいはアウグスト・マッケ風。

「海 」(1929 油彩 )代表作とされる。多くの人はこの絵を目にしている。コラージュ。
以下はこの絵の解題詩の全文。
「透明なる鋭い水色。藍。紫。見透される現実。陸地は海の中にある。
辷る物体。海水。潜水艦。帆前船。
北緯五十度。
海水衣の女。物の凡てを海の魚族に縛(つな)ぐもの
萌える新しい匂ひの海藻。

独逸最新式潜水艦の鋼鉄製室の中で
艦長は鳩のやうな鳥を愛したかも知れない
聴音器に突きあたる直線的な音。

モーターは廻る。廻る。
起重機の風の中の顔。
魚等は彼らの進路を図る――彼等は空虚の距離を充填するだらう――

双眼鏡を取り給へ。地球はぐるつと廻つて全景を見透される」

こちらはいくらか絵に沿っているが、難解なことに変わりない。

「自画像 」(1916) 結婚した頃のもの。上掲の好江夫人の眼にどこか似ているような。

「花 」(1925 水彩)これは誰の影響を受けた絵だろうか。良い水彩画だと思う。

「そこに在る 」(1933 水彩 )最晩年の絵 。古賀春江は、亡くなる2年前コレクターでもあった川端康成と交流があったという。その川端の所蔵品の一枚。

自死したノーベル賞作家は、古賀春江の絵のどこに惹かれたのであろうか。

古賀春江は油彩のために水彩の下絵も描いたようだが、クレーに傾倒しただけに透明感ある水彩画に惹かれ水彩タブローも多い画家である。
何時ものように、彼が若くして病没しなければーという「たら」、「れば」の嘆きだがーきっと独自の良い水彩画を描いただろうと思う。上掲の「竹林」、「花」、「好江夫人像」などを見ているとそんな気がする。

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