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カミーユ・ピサロの水彩画(2/2終) [絵]


ピサロの絵は、教科書に載るような安定感のある落ち着いたものというのが定評だが、1000枚近くの画集でよく見ると複雑な面を持っているようにも見える。風景画も壁に飾りたくなるような光溢れる美しい景色のものがあるが、かたや貧しい農村、農夫や農婦、農家の子供なども描いている。都市景観も賑やかな通りの雑踏があり、街に工場の煙突の煙がたなびいたりする。光の変化を捉えようとした側面が強調されるが、アマチュアには解らぬ別の側面もあったのかも知れない。
ピサロの言葉に「誰も見向きもしないような辺鄙(へんぴ)な場所に美しいものを見る人こそ幸福である」「本物の印象主義とは、客観的観察の唯一純粋な理論となり得る」というのがあるそうだが、かなり屈折した性格もあったかと推察出来そうだ。
そう思わせるのは、幼くして絵を描きたくて家出したこと、執拗なまでの光の変化を捉えようとする連作、ぶれぬ印象主義、妻と育てた6人の子供、無政府主義への傾倒、など彼の強い意志が感じられないか。
このような詮索はアマチュアの手に負えないし、絵の鑑賞に不可欠というものでも無かろう。
むしろピサロの絵の安定感はどこからくるのか、追求した方が絵の勉強になりそうだ。
これも専門的には色々あるのだろうが、ひとつはその構図の取り方にあるような気がする。かなり考え尽くして作っているに違いない。

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「Portrait of the Artist's Son, Ludovic Rudolphe, 画家の息子、ルードヴィク ラドルフ」(1888)
「自画像 」(1873 油彩 )43歳とは見えないグレイのヒゲ。1900年(フレスコ画)、1903年(油彩)の自画像もあるが、こちらはさすがに老人の白いヒゲだ。
「Portrait of the Artist's Mother, 画家の母の肖像 」(1888)
「Haystacks, 干し草の山 」(1889)
「Twilight, Eragny, 夕暮れ、エラニー」(1889 )上と同じ絵だが、夕暮れなので 積み藁が茶色いのでそれと分かる。
「Eragny, エラニー 」(1890 ) 左に林。夕暮れか。
「Eragny Landscape, エラニー風景 」(1890) ぼかしにじみ。朝か昼であろう。
「Eragny, Sunset, エラニー、日没 」(1890)
「Eragny, Twilight,エラニー、夕暮れ 」(1890)
「Hampton Court Greenハンプトンコートグリーン」( 1890 )英国南西部になる旧王宮庭園。

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「Hoarfrost, 霜」(1890 )真ん中に尖塔。冬景色だが、春の色彩。
「Kensington Gardens, ケンジントン庭園 」(1890)ダイアナ妃が住んだ、ケンジントン宮殿の庭園。ハイドパークに隣接する公園。 右に人の群。
「Landscape, 風景 」(1890 )森の中に家。
「Landscape at Eragny, エラニー風景 」(1890 )ひだりに島のように見えるのは雲か。
「London, St. Paul's Cathedral, ロンドン セントポール聖堂 」(1890)
「Three Peasant Women, 三人の農婦 」(1890)
「Trees, Eragny, 樹々、エラニー 」(1890 )左 の一本杉が印象的。
「Feast Day in Knokke, クノックでの祝宴の日 」(1891 水彩 グヮッシュ)
「Kew Gardens 2, キュー国立植物園 」(1892)キューガーデンはイギリスの首都ロンドン南西部のキューにある王立植物園。キュー植物園などとも呼ばれる。1759年に宮殿
併設の庭園として始まり、今では世界で最も有名な植物園として膨大な資料を有している。世界遺産に登録されている。
「エラニーにて、1886年頃」(写真)ピサロと6人の子どもたち、中央の女性が妻のジュリー。
「テアトル・フランセ広場、雨の効果」(1898油彩)代表作のひとつ。

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「Kew Gardens, the LIttle Greenhouse, キュー国立植物園、小さなグリーンハウス」( 1892 )ヤシの木が植物園らしい。
「The Cowherd (Young Peasant)牛飼い 」(1892 フレスコ グヮッシュ 、水彩 )
「Market at Gisors ジゾールの市場 」(1894-5)ジゾールは、パリから西北西に70kmの町。
「Sunset with Mist, Eragny, 霧の日没、エラニー」(1890 )
「The Picnic, ピクニック」(1891)
「Workers in The Fields 農場で働く人たち 」(1896-7 水彩)大きさ不明。次のグヮッシュと同じ絵だが、油彩は見当たらない。両方ともエスキースではないのだろうか。
「Workers in The Fields 農場で働く人たち」(1896-7グヮッシュ)25.4×19.7cm

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さて、日本では、大原美術館でピサロの「The Apple Pickers」( 1886 油彩) を見ることが出来る。128×128cmの大きな絵である。題は「リンゴ摘み」とか「りんご狩り」と訳せば良いのか。
画集にそのエスキースが無いか探したが、見つからず「Seated Peasant Woman Crunching an Apple 座ってリンゴをかじる農婦」(1886 パステル)があった。油彩では左下のリンゴをかじっている人物、そのものである。また、画材や制作年は不明だが、真ん中の棒を持った女性の習作も残されているから、エスキースは作らなかったのかも知れない。
ピサロのエラニー移住は1884年からで、アトリエは林檎の果樹園に続く庭の納屋を改造したというから、その地での作品であろう。
ピサロの探究心には感心するが、このように部分的にも習作をしているのだ。
ピサロの代表作「羊飼いの娘(小枝を持つ少女、座る農家の娘)」(1881 油彩 81×61.7cm オルセー美術館)も農村に住む若い女性の日常を描いた集団像の為の習作としての単身人物像だと言われている。油彩画を描くとき部分的にスケッチや習作を沢山描いたのであろう。それが水彩やパステルでなく油彩であるところが凄い。しかも後世タブローとして代表作の一枚になるところは流石に巨匠だ。

リンゴ狩りは、これに似たモチーフの絵がほかにもある。
「The Pickers、Eragny リンゴを摘む人達、エラニー」(1888 油彩 )60×73cm ダラス美術館蔵。大原美術館の絵が描かれた2年後の作品で点描画風。
こちらにはエスキースと思われる「Picking Applesリンゴ摘み」( 1888 グワッシュ )46×59 cm 個人蔵、がある。絵にグリッド(格子)があるのでそれと分かる。しかし大きさは油彩より少し小さいだけだ。

これらの絵も、構図がしっかりして落ち着いた魅力的な絵の一例であるが、アマチュアには思いもつかぬ計算の上に出来上がっている構図なのであろう。
次の絵なども、グヮッシュが習作だろうが、油彩は実に安定感がある。
「Woman Burning Wood 木を焚く婦人」(1890 グワッシュ )子供と牛がいない。炎の赤が鮮やかでそちらに目がいく。
「White Frost,woman breaking wood 「白い霜、木を折る婦人」(1890 油彩)火のそばに人物が現れ安定感が出る。さらに後方に牛の群れが描かれ遠近感が出て更に落ち着く。
しかし、安定感は、ともすれば絵の面白みに欠けることもある。このグヮッシュには
また別の魅力もあることも疑いが無い。

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