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高山辰雄のパステル画4(終)ー存在追憶 限りなき時の中に [絵]

パステルによる構想や下図が本制作でどう変わるかを見るのは面白いので、「白い襟のある」「花と」「夜明けの時」など何枚か並べてみた。構想や下図で朧げだった女性の顔も、本制作になると目鼻立ち唇がはっきり描き出される。

パステル画の話から少し離れてしまうが、高山辰雄の描く女性は、若い女性にかぎらず、母も少女も、皆謎めいて妖しい顔をした絵が多い。画伯はどんな女性像を表現しようとしたのか。
高山の没後すぐに出版された画文集「存在追憶 限りなき時の中に」(高山辰雄 2007 角川書店 )は、画伯へのインタビューを編集したもので、表紙に「存在追憶 限りなき時の中に」(1999)が使われ、本の題名にもなっているが、その中で高山は、次のように言う。

「人物の顔 、表情もコスモポリタンな表現になってきたと言われることがあります。あれも変えたいと思ってなったわけではない。自然にああいう顔になっていったのです。つまり、私の中から出てきている顔なのでしょう。といっても理想の顔というわけではありません。私は実は、この世にない顔を描きたいと思っているのです。ただし、現実感、リアルな感じも欲しい。非常に欲張って考えているのかもしれません。」

また、前掲の高岡由紀子著「父 高山辰雄」 で、長女も同じことを書いている。父は「僕はこの世にいない女性を描きたいのだ」と言い、女性像の仕上げの時はもうモデルを見ずに描いたという。
もちろん初期の作品は、例えば22歳の時の「湯泉」(1934)や、後に画伯の妻がモデルの「砂丘 」(1936)に描かれたように普通の女性像である。

それが「白い襟のある」(1980)のように年を経て徐々に変わる。そして87歳になって描いた「存在追憶 限りなき時の中に」(1999 部分)に見る通り、一層不思議な顔になった。

年齢とともに絵が変わるのは、高山に限らず画家は皆同じである。高山の場合も「私の中から出てきている顔」というのがポイントであろう。見えているものをそのまま描いているのでなく、心の中にあるものを描いている。だから実在の女性に似た人はいないような不思議な顔になる。
絵が変わるのは心が変わっていくからである。そして、高山の絵は対象が花であれ、風景であれ、女性像 、人物と同じことのように見える。

高山の心がどう変わってそれにつれて絵がどう変わっていったのか、アマチュアがそれを説明することは荷が重いし、たぶん不可能であろう。



「白い襟のある」(本制作1980)手の表情が本制作でよりはっきりと描かれ、謎めいた顔をさらに引き立てている。
「白い襟のある(構想 4枚とも 1980 )一枚だけボールペン、3枚はパステル。
「母子 」(1981頃)
「いだく」(本制作1977)
「花と 」(左から 構想 下図 本制作 1977)構想と下図はいずれもパステル。




「夜明けの時 」(1972 本制作 構想 一枚はパステル)
「湯泉」 (1934)
「砂丘 」(1936)卒業制作画。
「少女 」(1979)
「青衣の少女」(1984)
「存在追憶 限りなき時の中に」(1999 部分)

九州の各県はそれぞれ異なる風土をもっている。大分も隣のあくまで明るい宮崎県と異なり、気候は複雑で、むしろ日本海に面する福岡県に近く冬などは寒く暗い。高山の絵は自らも認めるし、誰もが言うがどちらかといえば暗い。

画伯は明るい別府に近い春日浦の海辺で育ったというから、画伯の絵に、大分の風土がそのまま影響したとは思えない。幼少の時から、生きとし生けるものの命や日月星辰に関心を寄せた優れて個人的なものであろう。
しかし、絵に大分の風土をどうしても感じるのは、自分が短期間ながら大分で暮らし、山や海をくまなく見たからであろうか。パステルをふくめて、沈んだ深みのある色の中に浮かぶような花や人物の絵は、暗いといえばその通りだが、点描画のようなタッチの朦朧としたぼかしには強く惹かれるものがある。

長女は書いている。「日本画はさまざまな種類の筆や刷毛を駆使して描く。だが父は生涯、長流と呼ばれる筆一本で描いていた」と。パステルにも似た複雑な色とタッチの日本画が筆一本で描かれたものとは、にわかには信じ難い気もするが、画家の心の一徹な一面であろう。。

また晩年は、先に挙げた「自寫像2006年」のように、墨絵のようなより暗い色彩のない世界へ 入っていく。実に不思議で魅力的な画家であることは確かだ。


タグ:春日浦 長流
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