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サルバドール・ダリの水彩画 2(終) [絵]

さて、本題が後になってしまった。

ダリは水彩画も描いている。ネット画集によれば、3点のwatercolorとたくさんのgouacheによる宗教画(religious painting)などである。パステル画は探したがなさそう。

ダリの宗教画はシュールレアリズムの絵とは、一見して異なるようにも見えるが、宗教こそ超現実とも言えるのだから、油彩の超現実絵画と通底するものはあるのかも知れない。
グワッシュによる宗教画は1960年以降たくさん描かれた。画家56歳以降である。1970年代にはほとんど描かなくなる。ほぼ10年間である。
なお、ダリがカトリックに帰依したのは第二次大戦後である。
古典的、写実的方法から離れて抽象的な超現実絵画へ向かったミロとは異なる、ダリの根源のひとつがこの宗教への帰依にあるのかもしれない。
なお、宗教画は当然のことながら写実的でなく油彩における古典的、写実性は薄い。水彩の色彩の美しさが際だっている。

水彩(watercolor) の3点は次のとおり。
「Santa Creus Festival in Figueras フィゲラスのサンタクロース祭 」(1921 水彩)
「Don Quixote and the Windmills, ドン・キホーテと風車」(1945 水彩)
「Hitler Masturbating, 自慰するヒトラー」(1973 水彩)
グヮッシュの宗教画と異なり平板で暗い。3枚のwatercolorは、それぞれ画家が17、31、69歳の時の水彩の絵であるところが、青年、中年、老年期にあたり、それに意味があると思えないが何やら可笑しい。

水彩ではないが画家最晩年の油彩を一枚。ミロに似て半具象とアブストラクトの中間のようであまりダリらしくない感じもする。
「The Swallows's Tail つばめの尾」 (1983 油彩)
ヴァイオリンのf字孔は、fの横棒で4本の弦を支えるブリッジの位置をfの横棒で示すものだが、ダリは一体最期に何を言わんとしたのか。

3枚のwatercolorの他はグワッシュとあるが、こちらの方が(特に宗教画では)滲み、ぼかしの技法を多用してまるで透明水彩のように見える。

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「Angel of Light 光の天使 」(1960 グワッシュ 以下gと略す)
「Lazarus, come forth ラザロ出てきなさい」(1964 g)
「Assuerus Falls in Love with Esther エスターと恋に落ちたアシュエリス」(1964-67 g)
「Beati pauperes…Beati mites…」(1964-67 g)青と黄色が鮮やか。ラテン語でbeati は祝福、pauperesは貧しい、mitesは穏やか。山上の垂訓冒頭は「心の貧しい人々は、幸いである。天の国はその人たちのものである」。似ているが、同じ様なものか。不学にして訳せぬ。以下の宗教画もラテン語、聖書など不勉強で情けないが、訳せずギブアップ。ひたすらじっと絵を観ることにする。
「Self-portrait with L'Humanitie, ユマニテのある自画像」(1923 g )ご存知、ユマニテは仏共産党の機関紙。

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「Gala as Madonna of Port Lligat, 」(1950 g )愛妻ガラの写真を使ったコラージュ。
「Ionas in ventre piscis, 」(1964-1967 g ) 魚の腹の中のヨナ(?)piscisは魚座。

「Maria conferens in corde suo (Matthew 1:23) 」(1964-1967 g)
「Proelium magnum in caelo, 」(1964-1967 g)天国の偉大な闘い。
「Spiritus promptus est, caro vero infirma, 」(1964-1967 g)心は強く肉体は弱い。
「Vox clamantis, 」(1964-1967 g) 泣くものの声。

ダリはこのグワッシュの宗教画を描いた後、1969年「不思議の国のアリス 」の挿絵を描いている。限定2500部の署名入りで出版したものというが、銅版画のフロントページのほか12枚の絵がある。12枚すべてに縄跳びをしているアリスが登場するのが面白い。このアリスは、黒インキ(ペン)かあるいはエッチングなのか。12枚の彩色の画材も何か不明ながら、これが上掲のグワッシュの宗教画に( 鮮やかな色彩などが)どこか似ているように思う。

「不思議の国のアリス』は、イギリスの数学者にして作家チャールズ・ラトウィッジ・ドジソンが、ルイス・キャロルのペンネームで1865年に出版した童話。世界中で読まれた。
本作品に付けられたジョン・テニエル(1820-1914)よる挿絵が読者のイメージを膨らませたことは間違いなく、素晴らしいものだが、ダリの絵も独特のイラストで見ていて飽きない。
もっともいまの子どもたちは、ディズニーのアリスの印象の方がより強いのであろうが。

アリス症候群(小視症、大視症、変視症などをさす)と言われるアリスが遭遇する数々の超現実的な冒険譚とダリがこの挿絵を描いた動機にはもちろん関係があるに違いない。

「Down the Rabbit Hole 白ウサギの穴に落ちるアリス」
「The Lobster Quadrille ロブスターのカドリール」カドリールは四人が二組で踊るダンス。
「The Rabbit Sends in a Little Bill うさぎの家とトカゲのビル」
「Alice's Evidence アリスの証拠」
「銅板画(口絵:フロントページ)」

ダリといえば、溶けた時計や引き出しのある裸婦などを思い浮かべるが、鮮やかなグワッシュなども描いていて新たな一面を見たような気がする。いつもながら、自分が知っていることなどほんの一面だとしみじみ思う。
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