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高浜虚子の句 [詩歌]

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高浜虚子は1874年生まれ、1959年85歳で没した。
正岡子規に兄事、後に俳誌ホトトギスを主宰する。一族は星野立子、稲畑汀子など俳人が多い。
生涯に20万句を超える俳句を詠んだとされるが、現在活字として確認出来る句数は約2万2千句という。
虚子の作品は2009年12月31日に著作権が消滅し、2010年1月1日からパブリックドメイン(公有)に入っているから青空文庫で読むことが出来る。
500句、550句 600句などの虚子句集を青空文庫で読んでみた。

花鳥諷詠と客観写生を主唱した虚子の代表句は、例えばウキペディアでは次の通りである。

遠山に日の当たりたる枯野かな
春風や闘志抱きて丘に立つ
去年今年貫く棒の如きもの
波音の由井ガ濱より初電車
吾も亦紅なりとひそやかに
子規逝くや 十七日の 月明に
流れ行く大根の葉の早さかな

たしかにほぼ花鳥諷詠であり、花鳥は季語と同義語だがいずれの句にもそれが読み込まれている。また全てが客観と言えないような気もするが、写生句である。
季語がない、観念の句はもはや俳句ではないとして、伝統的な17音に徹した虚子の短詩芸術における本当の狙いは、奈辺にあったのか素人には分かるよしもない。
しかし結果から見るとこの二つは、俳句の大衆化に大きく寄与した。俳誌、俳句結社というビジネスモデルにおいて子規から受け継いだ写生、しかも誰が見ても同じの「客観写生」と誰が読んでも同じような感覚を呼び起こす「花鳥(季語)」を句に必ず読み込むべしとしたことは、俳句を詠む素人、趣味人の区別なく大きな支えになったことは疑う余地が無い。
大衆化に貢献した「新聞俳壇」も同じことだろう。
「ホトトギス」の長命、虚子一族の俳句ファミリーツリーの大きさはそれを如実に示す。虚子の客観写生と花鳥諷詠は営業戦略と揶揄する人すらいるくらいである。

ところで虚子の句をあらためて見ると、たしかに季語のない句は極端に少ない。無理やり入れている感じがするほどだ。
一方で客観写生の方は、主観写生もかなりあるように見える。もとより写生に客観と主観に明確な線が引ける訳もないのだが。
花鳥とは自然であり、自然には人間も含まれるとする虚子の俳句は、季語と人の心の動きをぶつけているだけのものが多いように思う。その意味で月並みに限りなく近い句が多いようにも思えるのだが、中にはどこか人の心に残るものもある。
これだけ多く詠めばどんな人にも感慨を引き起こすものが、必ず一つや二つあるだろうと言ったら虚子ファンに叱られるか。句は分かりやすいが、どうももうひとつ親しみが持てないのはどうしてか分からない。どこか俳句界の成功者というイメージが邪魔をするのか。かといって碧梧桐や放哉、山頭火は親しめるというわけではないのだが。

今回自分が拾い出した句は以下のとおりである。

鎌倉を 驚かしたる 余寒あり
代表句にも挙げられる。鎌倉中の人がびっくりしたのであれば「客観」写生か。
蓑虫の 父よと鳴きて 母もなし
枕草子の「ちちよ、ちちよとはかなげに鳴く」を踏まえているのだろう。
白牡丹といふといへども紅ほのか
確かによく見れば花芯の周りはほんのり赤い。とすれば客観写生句。
もとよりも恋は曲ものの懸想文
これは数少ない季語がない句。連句で言えば雑(ぞう)の句。もとよりも、のもが曲者、もとよりは、では月並み。
初空や大悪人虚子の頭上に
44歳の時のもの。大を入れて破調。字余りが効果的。さすが悪人。
一切の行蔵寒にある思ひ
昔この句に強く惹かれたことがあってよく覚えている。行蔵は出処進退のこと。
虚子の漢語好きは特別でなく、この時代の知識人は皆漢語、漢詩好き。俳句に漢語を使いたい気持ちはよく分かるが、読む方は辛いものがある。特に知らぬ漢語が入っているとしらける。
青空文庫は辞書が付いているので便利だ。
春雪の繽紛として舞ふを見よ
春眠や靉靆として白きもの
繽紛、靉靆など今使う人は無かろう。
福引に一国を引当てんかな
なんとなくおかしい。
敵といふもの今は無し秋の月
71歳、太平洋戦争終了の時の句。
出御今紀元二千六百年天高し
昭和15年の式典に出席したようだ。虚子の大戦への対処は、鴎外のそれに似て面従腹背と言えば一番近いが、酷だろうか。面従は、腹背であっても結果的には、服従だから。

この年は自分の生誕の年。翌年太平洋戦争勃発。

新俳句に走った俳人は早世する者が多かったが、伝統俳句に徹した虚子は長生きして膨大な沢山の句を詠んで昭和59年まで生きた。まるで花鳥諷詠と客観写生に守られたように。そして今なお俳句界の巨星として輝いている。



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